5/02/2010

colloquialism

 先月の教育回診では、実に多くの英語表現を先生が教えてくれた。それは、先生が英語や米国文化について教えることが私の成長にとって為になると考えたためと思われる。Johns Hopkins大学出身の先生が選ぶ言葉は時にスラング、ときに現代語、ときにレベルのとても高い語彙を用いており、教養の高さに由来する諧謔的なユーモアにあふれていた。今後私が米国で学び教え働くうえで、積極的にこれらの表現を摂取したことはきわめて有益だった。
 "plot thickens"(台本が厚くなる)とは、症例を聴いているうちに面白い展開になってきた時に聞かれた。"jet fuel"(飛行機の燃料)とは、ただの燃料よりもっと爆発的なエネルギーを供給するものということで、心収縮力を亢進する(がその代わり心筋酸素消費量を上げ心室不整脈のリスクがふえる)milrinoneやdobutamineの比喩で用いられた。
 "It speaks to the fact that .. "、とは「~という事実と関係している」というような意味合いで使われていた。"bit on the rear end"(お尻に噛みつかれる。rear endは、assの婉曲表現)は、「痛い目に遭う(から気を付けなければ)」ということ。"bit on the tail"も同義語。
 "around the horn"とは、野球で三振で試合終了させた後に捕手→三塁→ショート→二塁→一塁→投手とボール回しすることで、「やったぜ!」と勝利の感激を分かち合う(難しい病気の患者さんを退院させた後など)こと。野球表現では他に、"long run for the short slide"(少しのスライディングのために長いことは走らなければならない、苦労の割に見返りが少ない)というのもあった。
 "be attuned to"、とは「準備している、敏感である、話に耳を傾ける」ということ。"portend"とは「予兆となる」で、harbinger(名詞)、herald(動詞)なども同義。"as mad as a hatter"とは「気が狂っている」、不思議の国のアリスにででくるmad hatter(最近のディズニー映画ではJonny Deppが演じている)より。帽子職人が水銀中毒になったことに由来するらしい。
 "languish"とは、「勢いをなくす、衰える」。患者さんがICUをでて一般病棟にいくと、十分なケアを受けずに衰えてまたICUに帰ってくる恐れがあるという文脈で用いられた。"scripture"とは「聖書(経典)に書かれた言葉」ということで、「教科書的にはこうしなさいと言われていること」の意味で使われた。"surly"とは「無愛想な、苛立った」という意味。どういう文脈で使われたかは忘れた。
 最後に"You are all over this"。この類の口語表現が私にとって難しい。辞書を引くと"all over"にはいろんな意味があるが、ここでは「全面的な」ということ。「この件は君に任せたよ」「これは君が何とかするんだろう?」という感じだ。"He is all over the place"という表現もよく聞くがこれは別の意味で、「落ち着かない、せん妄状態だ、気がどうかしている」という感じ。

Cardiology

 大動脈弁逆流症(aortic regurgitation, AR)でみられるdiastolic rumblingは、Austin-Flint雑音とも呼ばれるがこれは拡張期に大動脈からの逆流が多くなると左心房からの血液の流入の邪魔をするために起こる。ARが重症になるほど、拡張期大動脈圧がさがり拡張期左室圧があがるので大動脈弁が早く開くようになり、雑音は短くなる。
 Ashman's phenomenonとは、RR間隔が長い拍の次に急にRR間隔の短い拍がくる(たとえば心房細動などで)と、その拍のQRS波は右脚ブロックになることをいう。これは前拍の長いRRのせいで右脚はまだ不応期がにあるため(右脚の不応期のほうが左脚のそれより長い)。これはwide QRS complexだが上室(房室結節より上位)由来で、premature ventricular contractionではない。
 心筋への慢性的なβ刺激は、β受容体のdown regulationを起こす。だからβ blockerが慢性心不全に有用である。またmilrinoneなどPDE阻害剤のよいところはβ受容体を介さずに心筋収縮力と血管拡張を起こすところにある。Flecanideの経口剤は、心房細動のリズムになるたび頓服する"out-of-pocket approach"で用いられることもあるが、これはstructural heart diseaseのある患者には有害である。
 心室頻拍(ventricular tachycardia, VT)をATP(anti-tachycardia pacing)でbreakすることができる。これは、AICDによりVTの拍より速くペーシングすると、ペーシングのリズムがVTをentrainしてしまう。これは、entrainという語感から、走っている馬に乗っている人の横をそれより速い列車が通り過ぎ、ひょいっとその人を車内に引き入れ捕まえるようなイメージを想像する。クールなアイデアだ。
 冠動脈の狭窄が有意かどうかを決めるのは、単なる狭窄割合ではなく、狭窄以遠の血管拡張能力(vasodilatory reserve)がどれだけ残っているかによる。まだ血管拡張能力が残っていれば、なんとか狭窄以遠に血流を確保することができる。その能力を使いきるのはだいたい狭窄が70%を越えたくらいのことが多いが、場合によりその限りではない。
 若年患者で右心由来のVTをみたら、arrhythmogenic right ventricular dysplasia(ARVD)なる心奇形を考えなければならない。これは右室自由壁の心筋が線維や脂肪組織に置き換わる遺伝的異常である。右心由来のVTは、肢誘導のQRSが北西軸(本来あってはならない方向)で胸部誘導のQRSが左向きという特徴がある。