8/20/2010

SALT

 今日はACLSで、S.A.L.T(supraglottic airway laryngeal tube)デバイスという画期的なものを初めてみた。これは何の変哲もないプラスチックの筒なのだが、一方は閉じており、代わりに側面(下1/3あたり)に孔があいている。これを挿入すると先端(閉じたほう)は食道、側面の孔は喉頭に位置するようにできている。
 これだけでもoral airwayとして機能するが、さらにすごいのは、その孔を通じてET tubeを気管内にいとも簡単かつ確実に挿入することができることだ。LMA(ラリマ)挿入後にET tubeをその内腔を通じて挿入するのにヒントを得て作られたという。軍関係で用いられ始めたらしく、今後civilianな分野にも広く浸透していくと思われる。ほんとに、挿管がめちゃめちゃ簡単になる。

8/14/2010

三年目

 三年目の目標はなんだろう。仕事に限って、だけど。自分の医学知識を補完することは無論だ。卒業したら、総合内科医だ。弱点があってはならない。全分野にわたって大概の事は知っており、教えられるようでなければならない。弱点を補強できるのも、今のうちだ。MKSAP(内科認定医試験対策)も、始めたほうがいい。

 人との関わりも重要さを増してくるだろう。人を教えること。まとまった内容を教えられるように、ネタ帳を充実させたい。まだ手技を英語で教えるのは上手じゃない。日本から新しく来た人たちに色々教えてあげることも必要だろう。

 また人を育てる(見守る)ことも重要だ。人がやりたいことを真剣に聞いて、きっとできると信じること。自分なら簡単にできそうなことだからと言って、さも簡単そうに「こうこうすればできるよ」とアドバイスしてもうまく行かないことを学んだ。

 それでも、信じて、長い目でサポートすることが大事だ。アドバイス以外にも、できることはある。「この人はきっとできる」と信じていれば、自然と会話や態度や環境が変わってくるし、それが相手の助けになることはある。

 今年度は姉妹病院の事実上の閉鎖に伴い、その病院の内科プログラムがうちに吸収される。教育の質、量が大きく変わる中で、どのように寄与できるか。「誰かが善行をはじめなければ、悪ははびこるばかりだ(有名な哲学者の言葉らしい)」といって自らECGレクチャやらCXRレクチャやら始めるつもりの人もいる。

 論文・研究、医学教育(医学生へのレクチャなど)、医療制度の理解と活用、プロフェッショナリズム(社会的・心理的・倫理的に困難な状況で患者・家族にどう対応するか)。来年からは総合内科に関しては指導医になるんだ(たとえ腎臓内科についてはフェローだとしても)と言い聞かせて研鑽したい。

8/12/2010

lottery

 今いる州の宝くじ(lottery)は、売上金の慈善利用が100%高齢者向けに限られているため、他の州に比べて高齢者向けのサービスが充実しているらしい。custodial care(身の回りの世話など、介護ケア)はskilled needsではないのでmedicareがカバーしない。だからmedicaid、私的保険、各自治体の補助などによる。

二重否定

 英語表現で、一度聴いても意味が取れない場合がある。たとえば銃で撃たれたことのある患者さんがいたとしよう。彼が"He won't shoot no one else."という時、直訳すれば「彼(自分を撃った相手)は他の誰も撃たないだろう」となるが、これは「彼は収監中か死んだかで、もう誰も撃つことはない」という意味だ。
 別のシチュエーションでは、夜勤の看護師さんがシフトを終えて帰ろうとしているとしよう。そこで彼が"You guys won't have fun without me."と言う時、これは"I'm leaving.(帰るね)"とほぼ同義である。「(私が帰っちゃうから)私抜きでお前らは楽しくないだろう」という、からかい表現である。

8/10/2010

Histiocytosis X

 HIV/AIDS患者でCD4カウントが低い人がHAART(抗HIV)療法を開始すると、immune reconstitution syndromeがみられることがある。これは、今まで免疫能が極度に落ちていたために日和見感染症に対して炎症反応を起こす(英語ではmount)ことすらできなかった患者さんが、免疫機能の回復に伴い感染の諸症状が一気に現れるものとされている。morning reportでそれを疑う症例を議論した。CXR(胸部レントゲン)で、右肺上葉を中心に陰影がみられ、しかしinfiltrateのようには見えなかったのだが、CT画像でみるとmiliary TB(粟粒結核)を疑わせる小粒状影がみられた。しかしTB諸検査は陰性。VATS(胸腔鏡下手術)生検でも最初は診断がつかず、検体を大学病院に送ったところLangerhans cell histiocytosisという診断に至った。

8/07/2010

Geriatrics

 Geriatricsは、医学のみならず看護、リハビリ、栄養、認知、眼・耳・歯・足・骨などのケアー、周囲の環境(家、家族サポート、地域サポート)、金銭面(Medicare coverage)など様々な角度から患者さんを診るのが特徴だ。しかも継続して診ることが何より重要だ。そして家や施設に往診などすると、バイタルサインも自分で取るし、入院患者さんの診療にくらべて身体所見に頼るウェイトが高い。全身状態、症状、それに背中の叩打痛から腎盂腎炎を疑い近くの病院ERに送ったりもした。治癒を目的にするというより「できるだけお家で生活できるようにする」とか「できるだけ現存機能を保持する」といったことが目標になる。自分にとって関心のあった新領域なので今は色々なことが分かって楽しい。

Inspire the audience

 先月は、日本の二つの進歩的な教育病院で若い先生方を前に講演した。準備しながら「この話の目的はなんだろう」とずっと考えていた。知識を伝えることなのか、自己満足のためなのか、相手をけなすためなのか、色々な考えが頭に立ち現われては消えた。そしてたどり着いた目的は「相手をinspireすること」だった。目的が明確になって、講演に魂が入った。実際に人々をinspireできたし、それにより新しいproductiveな出会いも沢山もたらされた。

 インスパイアするには、三つのステップがあると学んだ。まず相手の気持ち(不安)や目標、信じる価値にコネクトする。そして、なぜそれらの不安が生じるのか・なぜ現状ではうまくいかないのかを説明する。そのあとで、新しい価値、価値観を聴衆に訴えかける。この気づきのあとで、かなり形骸的な知識が多かった原案を変え、また最初の講演の後はさらに重要部分をクローズアップするようにして、二回目は内容・発表ともぐっと改善することができた。

story telling

 story tellingの上手な人になりたい。そういう魅力のある人の話は、たとえその話が長くても周りの人が飽きずに(また中断せずに)聴いてくれる。結論を急ぐ、ただ事実を伝えるのとは違い、「そういえば何年か前に僕が…」とかやると相手が(それで?そのあとは?)と注目して聴いてくれるような話。私は色々経験しているし、色々知識も増えているけど、これからはそれをいかに伝えるかだ。