7/30/2008

来月

 来月のスケジュールが判明した。10時間のシフトが月に20回ある。朝からのこともあれば、昼から、あるいは夕方からのこともある。仕事内容は、いままでより重症度の高い患者さんが多いことと、相談すべき人が増える。よりアクティブだ。
 前の病院では、救急部で24時間勤務もあったのに比べれば恵まれている。10時間ルールといって、シフトが終わってから10時間は再び病院に来てはいけない。たいてい14-19時間くらい間隔がある。だから眠ることが出来る。
 内科学会の地方会に、いまのところ症例を4つ応募する予定だ。いくつ通るかは分からないが、添削の指導などもして貰えるから良い。これから先、興味深い症例を何の気なしに症例報告にまとめられることが望まれる。

7/25/2008

実技

 眼底鏡は必ずしもどの病院でも教わるものでもないようなので、忘備のためにもコツを少し書いておこう。まず眼底鏡をつうじて物を見ることに慣れる必要がある。眼底鏡を顔に固定して、メガネのように一体となって扱う。そして部屋を暗くし、眼底鏡の明かりも暗めにして、患者さんにはすきなだけ瞬きして構わないと伝えておく。

 患者さんには正面からでなく、耳側から接する。縮瞳させないためである。瞳孔に眼底が黄色く光って見えたら、そのまま近づく。血管を一本みつけ、焦点を変えてはっきり見えるようにする。あとは耳側をのぞきこみ血管を追えば視神経乳頭が見えるはずである。視神経乳頭では、カップ/ディスク比を測定する。まずここまでが基本所作である。それから、異常所見がないか探す。

話す、書く

 英語を話す練習、これは実際に頭で考え口を動かすしかない。「こんな症例がきて、こういう状況で説明するならなんというか?」と自問して、その場でゴニョゴニョしゃべる。実技試験の練習でもそうだったが、何度か練習するうちにこなれた表現でうまくまとまって話せるようになる。ちょっとした時間のあるときに積極的に練習するよう心がけよう。
 米国内科学会に入会した。症例報告などを発表するのに必要なためだ。年会費は病院が払ってくれる。キャリアを積むために、これからはアカデミックな活動を積極的にしていかねばならない。いま書いているのは250語程度の小さなものだが、徐々に慣れて長文も書けるようになりたい。ありがたいことにサポートしてくれる先生はたくさんいる。

7/24/2008

物々しい

 LPS法(Lanterman-Petris-Short Act)はinvoluntary psychiatric hospitalizationに関する手続きを米国で初めて定めた法律である。カリフォルニア州で1967年に制定され、他州の同様な法律の草分けになった。第5150条というのが特に関係している。
 いまいる州にもそれに相当する法律があり、外来でも時々、警備の人にお願いして患者さんを救急外来に連れて行ってもらうことがあるそうだ。自傷他害のおそれがある場合に本人の同意がなくても72時間を限度にholdできる。そのあいだに精神科医の診察を受けて入院など処遇を決める。

7/23/2008

bread and butter

 日本でもそうだったが、バイタルサインのなかで血圧は医師がよく診察する。診察前の測定で高かった場合に、再確認のためにもう一度測定することになっている。血圧はsilent killerと呼ばれ症状はないが、血管に負担をかけ心臓をはじめ各臓器に長期的に影響を及ぼす。だから医師が早期に診断して早期に治療をはじめなければならない。
 患者さんにしてみれば「症状がないのに治療しても・・一生薬を飲まされるのは不快だ・・」という気持ちや、「医者が病気をつくって症状もない人にどんどん薬を処方したいのか」「どんな薬にも副作用がある、長く飲むなんて却って悪いのではないか」という見方まであるだろう。正直、一個人としての私の中には共感している部分がある。
 でも医師として正しい知識をみにつけねば。外来診療で最も遭遇する病気であり、なにをどのようにすればよいか諳んじられるようでなければならない。指導医の先生がJNC(Joint National Committee)の最新版ガイドラインをくれたので、早速読もう。その上で、患者さんと接しながら自分なりの哲学を持とう。できれば薬を使わない方法を模索したい。

7/22/2008

マネーゲーム

 法律、税、金融などの分野でニューヨークで働いている方々は多い。知り合う機会があり話を聴いたが面白かった。レバレッジ(他人資本を借りて、少ない自己資本で多くの利益を得ること)という言葉はウェブサイトなどで見てはいたが、改めて説明され少し分かった。
 金融は資本をいかに増やすかという学問である。情報工学から援用して生み出される新たな金融理論をもとに、金融マンたちがリスクを回避し利益を上げるよう日夜働いている。お金を増やして、それをどうするの?とも思うが。流れに逆らうようにお金を動かすことで市場の安定に役立っているのだという。
 この世に経済がある限り、誰でも避けては通れない。仕組みを知っている人が得をする。72の法則(年率×年数が72のとき資本は2倍になるという複利計算の目安)など資産運用の知識、相続税や贈与税を少なく済ませるための知識。仕組みを知る人は「絶対やったほうが良い」というが、リスクも知っておかないと生兵法はケガの元である。
 彼らの説明は分かりやすく、情熱的である。「結局は小学生でも分かる計算です」と言わんばかりに、たとえを使ってたくみに説明する。売り込むために社内外でプレゼンを鍛えられているのだろう。自分もそれぐらい人に自分の専門分野を話せたらと思うのだが。売り込まなくても良いから、せめて伝えられるようにはならなければ。

7/17/2008

共感はできるが

 外来業務(とくに家庭医などプライマリケア)で多い仕事の一つに、physicalがある。なぜphysicalというのか知らないが、就職や運転免許取得のためなどに提出する書類を記載することである。下記の症状はありますか?の質問に「はい」または「いいえ」をチェックし、必要な診察や検査の結果を記載する。
 書類は患者さんが持ってくるはずでクリニックには置いてない。が、先日は患者さんが「職場に聞いたらクリニックに用紙があるはずと言われた」「クリニックの予約をするときに持って来いといわれなかった」「わざわざ来たのに書いてもらえないとは何事だ」などと訴え揉めた。どうしようもないので事情を理解してもらったが、患者さんの怒りモードは最後まで収まらなかった。
 日本でもよくあるが、患者さんが診察が終わらぬ内に「これは何の病気だ」「病名は何だ」「薬はあるか」「○○から来ているのではないか」と矢継ぎ早に答を求めてくる場合がある。それだけ知りたいということだろう。詳しく調べないと正確には分からないなどと応え、自信を持って対応すればナンということもないはずだが、英語なこともありまだ慣れない。

Systems

 外来業務では筋骨格系の訴えを聞くことが多い。今日も肘の腫れを訴える患者さんがおり内側上顆炎(ゴルフ肘ともいう)の診断であった。外来指導医の先生はさすが診慣れている感じで詳しく説明してくれた。他にも肩、膝、足の付け根、腰などさまざまだ。
 また、まぶたが腫れた患者さんもいた。炎症がどこにあるかでhordeolum、chalazion(どちらも物貰いの一種)、blepharitis(眼瞼炎)、cellulitis(ほうか織炎)など用語と治療がことなる。ほかにも頻尿、貧血、皮膚の発赤、のどの痛みなど。患者さんが多く充実した一日だった。
 さらに、メンターの先生から症例報告(abstruct)を書くよう課題を与えられた。どんな症例で、どのように意義深く、どのように教訓になるかを簡潔に表現するのだという。初めての経験だが、これから当り前にやっていかねばならない(おそらく日本にいてもそう)のでやってみよう。

7/15/2008

Seeing is believing

 先週は耳の訴えが多かったが、今日は皮膚の訴えの患者さんが多かった。皮疹の性状を口で説明するのは日本語でも難しいことがあるが、英語ではなおさらである。macule(小斑)、papule(小丘疹)などの基本用語を整理し、皮膚科のアトラスで皮膚症状の写真を見ながらその英語表現を勉強しようと思う。

7/11/2008

ふたたび試験

 もっとも忙しくないローテーションから始まった私は、本来自由な時間に医師国家試験の勉強をすべきであった。チーフレジデントに相談すると、私の年間スケジュールでは今勉強するしかないと分かった。来年受けることも不可能ではないが、来年はすでにフェローシップの申し込みなどでとても忙しいらしい。それに、フェローシップを受ける前に資格をそろえておいたほうが履歴書も見栄えが良い。
 いざはじめると、いままでの試験に比べて治療に重きが置かれ、かつ実践的で研修にもプラスになりそうだ。問題文(症例)を読んで、使える英語表現を学ぶこともできる。シミュレーション形式の問題にも慣れなければならない。検査や診察を自分でオーダーする。シミュレーション上の時計があって、それを自分で進めると検査結果が出たり、患者さんの状態が変化したりする。状況に応じて適切な処置を行うことが要求される。

7/10/2008

恥ずかしながら

 耳あか(cerumen, earwax)除去に来た患者さんが居た。耳あかをやわらかくする薬(cerumenolytics)を使ったり、シリンジで消毒液を混ぜた水を注入して洗ったりする。今日は洗浄した。初めて見たが、日本でも耳鼻科外来で日常的に行われる処置だそうだ。米国では、専門医の診察を受けることが難しいので一般医の仕事になっている。
 耳掃除をしないから耳あかが貯まるのであって、日々耳掃除をすればよいのでは?と思ったが、調べてみるとそうではなかった。耳掃除は鼓膜や耳道を損傷する惧れがあり、耳あかを奥に押し込んでしまうこともあるから良くないという。また、耳垢じたいに抗菌などの保護作用があり、耳道の皮膚が新陳代謝する過程で自然に耳あかは外に運ばれて出てくるはずだそうだ。ほうほうと勉強になった。

7/08/2008

medical clerk

 電子カルテ上に診察した患者さんのリストを作っているので、経過を追うことが出来てよい。今日は、hallux vulgas(外反母趾、患者さんはbunionと言っていた)の患者さんが1st metatarsophalangeal joint(足の親指の付け根)の感染を起こして来院し、整形外科外来で切開排膿になった。
 今日すぐに手を打つべき状況と、数日以内、来週まで、来月までに手を打つべき状況を判断するのが外来診療では重要で、それは日米でなんら変わらないのであるが、実際に方針を決めるときの様子はだいぶん違う。日本の感覚からすると、放り出すように見えるが、患者さんが自立しているとも言える。
 米国では、検査オーダーをすると患者さんが自分で、あるいは受付で秘書さんと相談して予約を組む。他科の受診なども同様で、「○○について他科を受診」と書けば、あとは患者さんと秘書さんで日程を決める。その検査の結果説明も、患者さんが都合の良いときに予約を入れる。
 日本では、検査を組むときに医師が自分で検査枠を調べ、患者さんの都合を聞いて自分で予約し、説明の日程も自分で組む。たとえ他科の検査であっても、説明や同意書は自分で取ることがおおい。予約を組むために「この日はどうで、あの日はどうで」と話し合うのは、医師でなくでもできるはずなのだが。

7/04/2008

Grenada

 Grenada、St. George'sという地名はいまの病院ではとても有名だ。カリブ海の南東、ベネズエラのすぐ北にある島国とその首都である。そこに米国やカナダからの学生が大半を占める医学部があり、いまの病院には、そこ出身の研修医が多いので、St. George'sといえば皆なんのことか分かるのである。
 もっとも、米国も西半球の一員であるから中南米諸国のことくらい人々が知っていてもおかしくはない。また1983年、米国がベトナム戦争以来の大規模な軍事介入を行い、共産圏の支持を受けた勢力を制圧したことでも有名なのだろう。

診断への道

 米国の外来保険診療は、症例が軽症から重症まで5つのレベルのどれに相当するかを医師が判断し、レベルに応じた診療費を請求するシステムだ。レベルは行った検査の多さ、症例の複雑さ(case complex)などにより決められる。
 医師がレベル4と判断しても、保険会社がカルテを見返してレベル4相当の記載がないと判断すると、レベル3以下の金額しか支払われない。主訴について何項目の質問を、何系統(循環器、神経、内分泌、消化器など)のreview of systemsと診察をせねばならないかが定められているのだ。
 お金を取るためにきちんと診察しましょうでは本末転倒。しかし、review of systems(循環器症状、消化器症状など、各システムごとの症状をくまなく訊くこと)、システムごとの診察をいかに効率的に行うかは課題だ。私は診断するために居る(This is what you here for)のであるから、遠慮しても仕方ない。どんどん考えどんどん訊いて、答えにたどり着かねばならない。

日々是精進

 昨日は患者さんが手術室に運ばれたり、救急外来に運ばれたりとバタバタした。あくまでもdoctor's officeで、本来は血圧の相談などを座って行う落ち着いた場所のはずなのだが。外来から手術室に直接運ばれたのは数年ぶりだという。
 そして今日は、患者さんを救急外来に送った(点滴が必要なため)。吐き気とだるさ、立ちくらみを訴えていた糖尿病の女性だったが、そのような場合に心筋梗塞が疑われることは知っておかねばならない。幸い心電図にそのような異常はみられなかった。
 患者さんにも色々な人が居る。喘息の男性で、発作時の吸入薬と発作予防のための吸入薬を混同している方が居た。発作予防の薬は、発作のときには効かない。それを身振り手振り伝えたら「ありがとう、教えてくれたのはあなたが初めてだ」という。嬉しくなったが、実は何度説明されても理解できない常連さんだった。今回は理解してくれたならいいが。
 また、原因不明の慢性腰痛で苦しむ女性が、痛みのため眠れず食事も出来ないという。予定されていた腰骨の検査は延期になり、ペインクリニックの予約は来月で、どうにもならないと涙ながらに訴える。大変ですね、お気持ち分かりますなどと話し、相手の話を聴いていると、笑い出した。「この一週間ではじめて笑ったわ」という。
 本当になんとかしてあげたかったのだが、指導医とも相談してnarcotics(麻薬:米国ではかなり一般的に処方される鎮痛剤)を処方することにした。しばらくして指導医があきれた表情でいうには、さっきまで泣いて一人で立てなかった彼女が、受付で杖なしにperfectly confortableな様子だという。narcotics目当てだったのだという。確かに見ると笑顔だ。
 ちょっと信じられない。何年も検査を受けており、腰骨に異常も見つかっている。いままでnarcoticsが処方された形跡もない。それに、薬物依存の患者さんは、たいてい怒って切迫しており、「この人には薬が必要です」という偽の紙などを持っている。出来れば、患者さんの訴えが本当であってほしい。

7/02/2008

来たからには

 ついに初出勤、クルマに乗り込み病院へ。外来業務で、そんなに人数を診たわけではないが、まだ慣れず、英語もタドタドしい。しかし免許もあり知識と経験もあるのだからと、keep my chin upして過ごした。スタッフはサポートしてくれ、私も間違いを犯したわけでもなく、突然気分の悪くなった患者さんにも対応し、カルテも書いて処方箋も書いて診療の一部を担当できた。
 私の担当するurgent careは、みな初めて会う患者さんばかり。迅速で必要十分な情報収集が求められる。患者さんが診察室に入ると呼ばれ、扉にカルテが置いてある。扉の前でカルテをめくるが、既往歴、前回受診時のカルテ、最近の検査データ、内服薬、今日看護師さんが取ってくれたバイタルサインなど情報は無限だ。今回の来院にrelevant(関連のある)なものを選び整理する。
 診察を終えると部屋からでて、カンファ室で指導医に説明する。なかなかcoherent(理路整然)にいかないが、指導医はOkey、Okey、と相槌打ちながら聞いてくれるのが幸いである。カルテをじっくり読み直す時間や文章を練る時間もなしに考えを伝えるのは難しい。だが、思えばその訓練をしに米国に来たようなものであるからがんばろう。
 また、米国では眼底鏡がどの診察室にも置いてある。人体で唯一血管を生で診ることのできる場所であるから、血管病変(高血圧、糖尿病、動脈硬化など)を疑う患者では必須の診察事項となっている。日本でも、もちろん自分で眼底鏡を買って診察してよいのだが、今までしてこなかった。あいた時間に一緒に外来している同期の研修医と練習しあったが、なかなか難しい。

7/01/2008

リスク

 今日は病院全体のオリエンテーションで、ついにIDバッジやポケベルをもらった。臨床医学と違う英語(病床管理、院内感染対策、危機管理、保険病名、正確な処方やオーダー、公文書作成などについて)を一日中聞いてへとへとになった。これだけ英語に暴露されるには、やはり働くしかないのではないか。圧倒されたがやる気もでた。
 最後には保険、年金について保険マンらしき男性(院内のbenefit expertという)が早口で説明した。ついてゆけないと同時に、このような狂った保険制度を平気な顔で説明するこの人と保険会社、製薬会社、ひいては米国社会に少しの憤りを感じた。が、来た以上調べて調べてよい方策を採らねばならない。
 健康保険ではdeductible(この金額までは全額自己負担という免責額)、coinsurance(入院費などを保険がカバーする割合)、copayment(外来受診のたびに払う別途医療費)、out of pocket maximum(自己負担限度額)などの用語が飛び交った。
 保険料(benefit contribution rate、contributionとは負担金の意味)は収入と家族構成、保険の種類により決まり、2週間ごとに支払われる給与から差し引かれる。保険はPPO(Prefered Provider Organization)といい、各保険ごとに提携医療機関の数や地域に差がある。私は病院勤務なので、自分の病院に掛かればどの保険でもhighest benefitが得られるのだが。
 ここまででも飲込みに一苦労だが、薬代のための保険が別にある。処方箋をもらって薬局に行くと、自己負担10ドル(後発医薬品)、30ドル(先発品)で薬をもらえるという。ほかに歯科保険、眼科(メガネ・コンタクト)保険がある。さらに、これらを支払うための口座(health saving account)をつくると、振込額に応じて病院から補助が出るという。このあたりから飽和してきた。
 リスクに応じてプランを選べと説明していたが、自分は病気などしないからと月30ドルの保険にして、月200ドルの保険を掛けた人に比べ年間2000ドル浮いた人は、そのお金をどうするのだろう。しかも予想に反して病気で入院でもしたら破産である。健康に関してリスクを負うのは理解できない。安い保険にするひとは、お金がなくてそうせざるを得ないだけではないかと思う。