4/29/2009

忙し山もあとちょっと

 「もうすぐ(終り、クリスマス、お正月)だ」と日にちを指折り数えて待つことを英語でcounting the daysと言うが、MICU monthもいよいよ残り一日、counting the hoursになった。結局忙しくても朝6時から夕6時の12時間勤務がいいところで、日本に比べたら短い。当直の30時間を入れても週に約80時間の労働だった(80時間は国の規定)。
 薬剤師さんが薬剤の調整(血中濃度のモニターが必要な抗生剤など)を、麻酔科医が気管内挿管を、呼吸療法士(respiratory therapist)さんが人工呼吸器の調整を、その他こまごまとしたことも大体看護師さんがやってくれる高度なチーム医療だった。
 自分たちの役目は各部門がうまくかみ合うように調整することだった。あとは手技をすべきだったのだが結局全然しなかった。二ヶ月あるうちの最初の一ヶ月だったので他の仕事で手一杯だったのだろう。二ヶ月目(6月)には手技以外の仕事をさっさとこなして積極的に手技をさせてもらおうと思う。
 人工呼吸管理、drip(昇圧剤、鎮静剤、インスリンなどの持続静注)の使い方など、オーダーしたにはしたがきちんと教われなかった。血行動態、呼吸生理などをもう少し理解しておきたかったが、如何せんcensusが多かったためroundもteachingがほとんどできない状況だった。少しは自分でも勉強しよう。

4/25/2009

infestation

 珍しいこともあるもので、患者さんに蚤(flea)と虱(louse)がたかっていることが判明した。うー(Ew!)。夜間帯に看護師さんが発見し、即座に個室に移し駆除シャンプーを使った。患者さんは一般病棟に入院し、その日の夜に急変してICUに入ってきた。そのあと2日たった夜に、nurse aid(看護助手)さんが首にflea biteを受けたことで発見された。それまでに誰かにうつった可能性もある。
 2週間食事もとらずシャワーも浴びずに自宅で弱っていた(おそらく酒は飲み続けていた)患者さんで、家には野良猫(地域猫)が数匹出入りしていたという。搬送時には意識もうろうで、私が診察したときにはすでに人工呼吸器につながっていたので、頭のかゆみを訴えられる状態ではなかった。詳細に髪の毛や皮膚を調べればみつかっていただろうが。衛生状態の悪いところから来た患者さんにはhigh index of suspicionを持っておこう…。

mood swing

 その日はすこしつかれていた(睡眠がたりなかった)せいもあり診療に必要な情報を得られず、さらに疑問点を質問するのがこわくなり、プレゼンテーションも自信なさげになり、回診後も独り暗い表情で仕事をする、というスパイラルに入っていた。日本語でもうまく説明できないが、わたしは言うなれば多分に気分屋なところがあるので気をつけなければならない。
 ちょうどお世話になっている先生と廊下ですれ違い、いまの仕事はどうだと聞かれたので楽しくやっていると答えた。すると、"You don't like the easy. I know you."とうれしそうな顔で言われた。これを聞いて元気になった。シニアの先生も気にかけてくれ、"Stop it"、"Ask"、とのことだった。単純で直接的な言葉だが、かえってためになった。そして翌日は色々な事がうまくいった。

4/22/2009

When it rains, it pours.

 censusという語は「国勢調査」として覚えていたが、意味は「全数調査」であり、病棟では「現時点で全部で何人の患者さんがいるか」という意味で使われる。いまの病院では、ICUのcensusは本来30人までというagreementがprogramとdepartmentとの間で定められているそうだ。余りにそれを超えると、回診が長くなり、仕事が終わらなくなり、患者さんの安全にもかかわる。
 そのcensusが徐々に増えて、先日40を超えてしまった。プログラムと科で話し合い、censusを超えた分についてはprivate serviceにまわすことになった。回診は短くなった(もし全員まわったら午後遅くまでかかっていただろう)が、誰がどの患者さんを把握するのか、夜間帯の扱いはどうか、など多少の混乱はあった。できるだけ患者さんを一般病棟に転棟、あるいは他施設に転院させなければならない。
 ちなみに、当直のたびたくさん入院がある人、あまりない人、というのがある。前者をblack cloud、後者をwhite cloud、と呼んでいる。私はどちらかというとblack cloudで、だいたい毎回規定人数の入院をとっている。ここでもcapがあるので、ICUなら5人(ただし持ち患者数10人を超えない限り)、それ以上の入院はover-the-capといって他の人にまわるようになっている。

4/17/2009

往来

 ICUの患者さんは、救急外来から入院する場合もあれば、他の病院から直接搬送される場合もある。また一般病棟から急変して運ばれたり、手術室から(回復室を経て)運ばれる場合もある。出て行くときには、たいてい一般病棟に転棟する。あるいはホスピス、リハビリ施設、LTAC(long term acute care、人工呼吸器などの高度ケアも行える亜急性~慢性期施設)などに転院する。
 どちらにしても、ケアが継続して行われるようなコミュニケーションが必要である。転棟するときはtransfer noteなるものを書き、転院するときは転院前にdischarge summaryをディクテートして、即日typeされたものを印刷して行先施設に渡す。私はtransfer noteを書くのが好きである。何を考えて何を行い結果どうなったか、そして今後どうするかを整理するので頭がすっきりする。なお書き出しはThank you for taking over the care of ~、にすることに決めている。
 そういえば米国のほうが転院・転施設のプロセスは簡易である。ケースワーカーが看護師資格をもっているためかもしれない。Placementをお願いします、とオーダーすると勝手にカルテの全コピーを先方に送り(referral)、受け入れが済むと保険関係の手続き(転院するにも保険会社のapprovalが要る)をして、それで終りである。「明日の何時に車を手配しておいた」「家族にも伝えてある」と矢継ぎ早に仕事が終わっている。
 ところが日本では、まず医師が「診療情報提供書」を書く。これがまず大変である。医師間の文書に特有の文体がある。そしてケースワーカーがそれを先方ケースワーカーに送り、先方の医師ないし病棟がこれを読む。そのうえで可否を先方ケースワーカーに伝え、こちらの病院のケースワーカーがそれを聞いて医師に伝える。残念ながらケースワーカーにあまり裁量がない。転院搬送の手続きも医師がして、転院に医師が付き添わねばならない場合も少なくない。
 ひとつには、米国では病院が経営上転院すべき患者を長く置いておく余裕がない。保険会社が入院費用を払うかどうかを別に決め、「もはやこの患者は入院に値しない」と判断すると以後の費用は病院持ちになる。米国の入院費用は高額である。また一つは、コメディカルの裁量が大きい。医師は医師にしかできないこと(医学知識と経験に基づいた方針決定、それに手術や手技)をする。他でもできることは、他の人にしてもらう。

4/06/2009

まるっと

 患者さんとその家族に「あなたは医学部をでたのですか」と聞きたくなる時がある、とは同僚や先輩のあいだでよく聞かれることだ。informed consent、informed decision、治療選択肢や状況を知らされた上で決定するのは患者さんである、というのはもちろん筋だが、ときに医療者からするとirrational、または医学上間違ったことを患者さんや家族が主張することがある。なんというか、ある仮説を信じ込んでいることがある。

 今日もある患者さんの家族(この病院の看護師)がやってきて、今している治療はおかしいと言いはじめた。不整脈の治療で薬を投与した数分後に、この薬はほかの種類の薬と違って遅効性なのだが、「私の経験ではこの薬は即効性だ、いまだに効果が現れないのはおかしい、ほかの薬を使え」という。ICUで勤務されたこともあるそうで、自信たっぷりだ。ICUの看護師さんが経験豊富なのは確かだが、この認識については正しくないように思われた。

 「あなたは医学部をでたのですか」「あなたの知識は間違っている」と言い返すこともできたが(そうした同僚もいる)、ケンカしても仕方ないので「それは私の理解とは違う、私が間違っているかもしれないが」といった。彼女が望むように、循環器科の先生に電話で延々と直談判してもらった。その間、自分の知識が間違っていないことをテキストで確認しつつ待っていると、10分くらいして薬が効いてきた。テキストによれば私の知識も間違っていなかった。

 彼女は私を見て肩をすくめた。私も同じしぐさをした。彼女も私も「言わんこっちゃない」と思ったのかもしれない。これからも彼女は患者さんの治療方針について彼女なりの意見を伝え、ときに命令し、ときに私たちの治療方針に反対してくるだろう。それは仕方のないことだ。患者さんはほかの病院から転院してきたが、前の病院でもトラブルがあったようだ(彼女によれば医療過誤のような)。とにかく患者さんがよくなることがゴールで、一生懸命治療すればそういうsocialな面もうまいことおさまるだろう。 


4/04/2009

I will survive

 はじめてのICU当直だった。朝6時から働いているので、がんばっても夜10時くらいに眠くなる。ちょうどその時間帯にはコールの頻度も増えて「あれもしなければ、これもしなければならないのに」という気持ちが起こってくるせいもある。カフェテリアでティーバッグ2個で淹れた500ml程度の熱い紅茶にミルクをたくさんいれてがぶ飲みし、禁断のケーキを食べたら目覚めた。ちょうどほかのserviceで当直をしている先輩や同期がいて、話もできた。

 私がいるのはmedical ICU(MICU、ミックユー)だが、重症度は日本の病院でいうHCU(高度治療室)に近い。pulmonary and critical care(呼吸器+重症管理)の管轄なので、ほとんどの患者さんは人工呼吸管理をうけている。術後の重症患者さんはsurgical ICU、脳外科・重症な脳神経系の患者さんはneuro ICU、外傷の重症患者はtrauma ICU、心臓関係の重症患者さんはCCU(coronary care unit)に入る。

 私は日本の病院にいたころHCUで働くのが好きであった。だから今度の当直でも、血圧低下、呼吸不全、尿量低下などの問題にとりくみ対応するのは楽しい。何が起きているかを把握するためのパラメーター、モダリティがたくさんあり、対応の結果がすぐにかえってくる。内科外来でじっくりと長期的な血糖管理や血圧管理をするのは、未だになかなか難しい。

 新入院が5人、そしてMICU管轄の30人あまりの患者さんについてカバーするのでとても眠れない。それでも朝5時ころいったんダウンして当直室で20分くらいベッドに横になると回復する。朝ごはんを食べ、自分の患者さんを診察して8時半の回診に備える。回診では私の患者さんを先にまわってくれる(はやく自分の仕事をすませて帰れるように)ので、まず新しい患者さんについてチームの前で詳しくプレゼンテーションして、前からいる患者さんについては大まかにプレゼンテーションし、それぞれ方針を確認する。

 私のプレゼンテーションは圧倒的に言葉の数がnativeの先生に比べて少ないし、ゆっくりである。でも自信をもって大きな声ではっきりと話すようにしている。ほかの人が自分の症例について何が起きているかをわかってくれることが目的なのだから、かえって早口や小さな声で話すよりよいだろうと思っている。ICUで求められるシステム(神経、循環、呼吸、消化器など)別のプレゼンテーションはまだ慣れないが、いまのところ何とかやっている。

 仕事を済ませ、12時には何とか病院を後にする。運転には十分に気をつけて帰宅し、シャワーを浴びて昼食を食べるとベッドに入る。明日も朝から早いので、少しでも寝ておかなければ。それでも、眠りにつこうと手に取った本、William Jamesの『プラグマティズム』の巻末解説が面白くて少し読んでしまった。肝心の本章部分はまだ難しくて読めていないのであるが、解説をよんで大きくアイデアをつかんだ気がするのでまた読もう。

4/02/2009

makes no sense

 ICU勤務がはじまった。今のところ、患者さんの数、不安定度ともにまずまずである。なかには重症な患者さんもいるが、その場を離れられない急変場面には幸いにして出会っていない。重症な患者の家族に接するときには、話の終り方が難しくてなかなか病室を去りがたい。
 1人の患者さんは、肝硬変で移植待ちなのだが、移植のリストに載るためには「この人は移植が必要な程度の状態です」というのを示さなければならない。MELDスコア(model for end-stage liver disease)というのがそれで、肝機能に関する各検査データを集計して数字化する。
 この患者さんはスコアの数字が高いのでリストの上位に載っているのだが、それでも前に何人かいるようでなかなか移植にならない。悪いことは、まっている間にこのスコアを高く保たなければならない。スコアが下がると、移植リストから外れる可能性があるのだという。
 肝機能が低下して黄疸がひどくなっても、血液が固まりにくくなっても、それを(必要に迫られない限りは)修正してはダメだという。ちょっと理解に苦しむし、患者さんの配偶者に説明するときにも、「なぜそうなの?」と自問自答している。移植の背景や仕組みを調べる必要がある。