11/22/2013

脳が増えた

 指導医として大事なことの一つは、人の意見をひきだすことだと思う。私も、フェロー時代は指導医に「2つの脳は1つの脳より優れているのだから、私と違う意見でもお前は自分の意見を言うべきだ。私が間違っているかもしれないだろう?というか、お前が何か違うことを考えてる時は、黙っていても丸分かりだぞ」とよく言われた。
 そんな時に「自分はこれだけassertiveになる訓練をつんだつもりが、まだまだ文化的背景にしばられているのか!」と思った。『朱に交われば赤くなる』というが、朱にはなれない。それでも白地を背にすれば真っ赤なように、日本に帰ると私はめちゃくちゃ喋る人だ。『青は藍より出でて藍より青し』という言葉を目指して、自分らしいassertivenessを追求したい。
 とまあ脱線したが、今月は「先生はどう思いますか?」「分からないことは質問してください」と繰り返したのみならず、自分は黙ってフェローの先生に回診させてみたり、色々なアプローチをトライしたおかげか、意見や質問がよく聴かれるようになった。おかげで、診療に用いられる脳が増えた。
 たとえば、「どうしてHIV/AIDSではリンパ球数を気にするのに、ステロイドによるリンパ球減少は気にしないのだろう(この症例、低いけど)?」と研修医の先生が質問する。それで、答えるべく「ステロイド、リンパ球減少」でGoogle ScholarしたらCMV感染の症例報告がたくさん出てきて、肝酵素異常とかもある本例でも抗原陽性だった。さらに、CMV DNA-PCRしか計ったことのない私に、フェローの先生が検査の読み方を教えてくれる。
 1錠のブロチゾラムを飲んでから起きない高齢腎不全症例をみて研修医の先生が「ブロチゾラムの高齢腎不全における半減期はどれくらいですか(添付文書に載っていません)?」と質問する。「長い」で終わらせようかとも思ったが、指導医たるものそれではいかんとGoogleして、文献を見つけた(Br J Clin Pharmac 1983 16 299S、Br J Clin Pharmac 1983 16 309S)。

11/20/2013

コンサルタント

 Malcom Gladwellが書いた"Outliers"(2008年)に、大韓航空801便の墜落事故とコロンビアのAvianca52便の墜落事故の話が出てくる。心理学者によるブラックボックスの分析などで、どちらの事故も「(とくに目上の人に)はっきり意見を主張できない文化的背景」が原因と考えられた。
 前者では「視界が不良なので目を頼らずレーダーを見てください、危険が迫っています」と言えない技術者が「機長、レーダーがよく働いてくれています」とほのめかす発言をし、後者でも管制塔に「私達にはあと一回着陸を試みる分の燃料しかありません」といえない副機長が「あのー、燃料が切れかけているようです」と遠まわしに言った。
 もちろん飛行機事故というのは小さなトラブルが6-7個重ならないと起こらないようになっているので、これが原因の全てというわけではない。しかし、実際に大韓航空がデルタ航空からDavid Greenergを改革に招いて共通語を英語にし、機内でもどこの管制塔にも忌憚なく意見が言えるようにスタッフを再教育してから事故はなくなった。
 私は米国腎臓内科でコンサルタントだった。コンサルタントは主科のやってきたことを見直して改善点をアドバイスするのが仕事だから、主科の気持ち的な部分にも配慮してうまいことcommunicateする術を学べた。日本でそれを苦手に感じる人達が多いのも無理はないが、文化に配慮しながらそういう人達をサポートしてあげたい。ひいてはそれが患者さんのためだから。

11/18/2013

広域チーム医療

 施設に住む物言えぬ高齢者が誤嚥後にERに運ばれてきて、施設の人が帰ってしまっていたらどうする?幸い吸引して酸素化は改善したし、肺炎所見もない。そのままお帰しするか?私なら、施設に電話する。そして最近の様子を聴いて誤嚥の原因を探す。そして原因が見つかったら、それを防げないか考えて嘱託医に手紙を書く。
 しかしそれは、嘱託医を責めるためでも、施設を責めるためでもない。患者さんのケアを向上させるために何か貢献したい、それだけだ。刻み食をトロミ食にしては?鎮静剤の量が調節できるなら考慮してはどうか?など具体的だが押し付けないスタンス。ケアに関わらせていただいて有難うございます、というスタンス。
 というのも、たとえば鎮静剤が効きすぎていたとして、そこには鎮静剤を使わなければならなかった理由があるはずだ。鎮静剤を使わなければならないほど認知症が進行していたのかもしれない。開始時は他害や転倒のリスクが迫っていたのかもしれない。手紙は、その辺の事情にも配慮して書かねばならない。
 それから、次に誤嚥して今度は肺炎になったら、どうするのか?胃ろうの議論は?治療のゴール、advanced care planは?これをERで決めろと言われても困るが、かといって嘱託医の先生も話すタイミングをなかなか見つけにくいものだろうと察する。だから「(難しいでしょうが)そろそろご家族とお話する時期かもしれません」と、そっと背中を押す。
 私は、忙しいERで前シフトから「CTで肺炎所見がなくCRPが陰性だから帰宅です」と引き継いでも、こうしてちゃんと電話して手紙を書ける医師でありたい。それが、私なりのprofessionalismでありsystem-based practiceだ。私は何も米国でマニュアルだの語呂合わせだのだけを学んできたわけではない、こういうことも大事だと学んできた。