12/15/2009

Eureka

 診療においては、病歴聴取が最も大事である。なぜ?どうして?と考えながら問診しなければたどり着けない答えがある。また、状況を想像して、五感を感じながら考えることも重要だ。忙しい臨床現場ではあるが、最近これが研ぎ澄まされている気がする。なんだか自分が探偵のように思えてくる。そして、正しい答えにたどり着いた時の喜びは、eurekaというよりはhigh five(同僚と高く掲げた手のひらどうしパンとする)な感じだ。逆に、最初にしっかり病歴をとらないと、あとあと後追いでくだらない検査ばかりする羽目になって(しかもたいてい答えにはたどり着かない)医師・患者ともに不快である。

 ある患者さんが黒色下血で来院した。黒色下血はたいてい上部消化管(胃、十二指腸)由来なので、そのあたりに潰瘍ができている可能性が高い。でも理由なく潰瘍ができるわけがない。よほど血液がサラサラすぎる場合は別だが、この患者さんは抗凝固剤を内服していたものの、血液の固まりにくさはちょうど治療域の範囲だった。なにか理由があるはずだ。鎮痛剤の飲みすぎで胃が荒れた?⇒そんなことはない。おなかも痛くない。ストレスか?⇒夫を含む親しい家族が相次いで数週間前に亡くなったという。これだ。案の定、胃カメラで胃潰瘍が見つかった。念のために直腸カメラもしたが出血源になるような病変は見つからなかった。

 ある患者さんが左足首からすね辺りまで赤く腫れあがって入院になった。軟部組織(皮膚、皮下脂肪)の感染症だ。なぜか?たいていは足の傷から細菌が入り込むのだが。後輩の先生は、「聴いたけど患者さんは足に傷なんてなかったと言ってます」と。私がよくよく話を聞くと、足爪下の甘皮を掃除するのが習慣で、数日前に傷つけてしまったという。

 経口の抗生剤を数日処方されたのによくならないという。なぜか。感染症じゃないのか?⇒足の傷からして感染症だろう。念のため深部静脈血栓症を疑ったが静脈エコーは陰性だった。抗生剤が当たっていないのか?⇒最近の入院歴もなく、MRSAをつよくは疑わない。足首じたいに問題があるのか?⇒数週間前に足首を捻挫したと判明。これだ。骨折の可能性も考えたけれど、すくなくとも骨自体に圧痛はないし、単純X線(レントゲン)も陰性だった。

 ある患者さんが失神で入院になった。日曜日12時ころに教会のミサで、ハンドベルを持って高い椅子に座っていたら倒れてしまったのだという。なぜか。直前に何をしていたのか。実は朝起きてすぐ内服するはずの薬を忘れてしまい、娘に取ってきてもらって11時に内服したという。その中には利尿薬が含まれており、案の定患者さんはトイレに行きたくなったが我慢していたそうだ。ハンドベル演奏のために緊張してベルを持って、さあ演奏が始まる、とベルを振り上げたところで記憶がないという。尿意切迫と緊張で自律神経の調節が狂った、迷走神経反射と思われる。

 ある妊婦の患者さんが髄膜炎で入院した。髄液検査の結果からは細菌性よりもウイルス性が疑われる。ウイルス性髄膜炎といえば下痢を起こすウイルス、口内炎を起こすウイルス、風邪を起こすウイルスなどがおもな原因だけれど、話をちゃんと聞くと、最近口唇ヘルペスができていたことがわかった。おそらくHSV-1による髄膜炎であろう。髄液検査の結果、細菌培養も無事陰性にでて、抗ウイルス剤で数日治療することになりそうだ。

 ある患者さんが失神で入院した。昨夕にリクライニングチェアでそのまま寝てしまったのが、翌朝起きたと思ったら気を失って、気づいたら床に倒れていたという。診察すると患者さんからどうにも煙臭(ただのタバコというより囲炉裏のある古い家屋のような香り)がプンプンする。頭痛もするというし、CO中毒か?⇒血液検査でCOHb 10%、おそらくそうであろう。100%酸素を投与したら頭痛は随分良くなった。

 なぜCO中毒なのか。家の暖房は正常に作動していたし、同居の母親はなんともない。喫煙者ではCOHbが上昇することがあるけれど・・このまま迷宮入りか、と諦めかけていたが、患者さんと話していると実は昨夜に寝たばこをしたまま寝てしまった(翌朝タバコを持っている指を火傷してしまった)という。おそらくそれが原因でしょう、家を焼かなくてよかったね、と私も患者さんも苦笑。

don't count your chickens

 腎臓内科のフェローシップの面接にあちこちから呼ばれだした。レジデンシーのときには完全な無名、外国の病院からの応募だったこともありツテのないところからは一切呼ばれなかったが、今回は特にツテもないのに招待状がくる。米国のある程度ちゃんとした病院で研修し、ちゃんとした評価を受け、ちゃんとした学術活動をしていれば、相応の顛末になるのだなあと実感する。
 とはいえ、面接に呼ばれたくらいではしゃいでいる場合ではない。自分の目標、専門的な医学知識、臨床経験、プログラムについての情報など、いわゆる「面接対策」「質問対策」をしなければならない。私はどうもそういう準備無しで押し通してしまうことが多いが、準備次第で将来が変わりうると思うと、今回はちゃんとしようと思う。

12/09/2009

women's lab coat

 病院は年に2着のネーム刺繍つき白衣を支給してくれる。今の白衣がぼろくなってきたので先月頼んでいたのが、やっと届いたという知らせを受けた。喜んで貰いに行って、さっそく着替えてみると何だかおかしい。第一に、小さい。Mサイズにしたのがよくなかったのだろうか。第二に、ボタンが左側についていて非常にボタンを掛けにくい。左利き用か?といぶかっていると、第三には背中にベルトのような帯が付いている。さっそく同僚の白衣と照合してみると、なんと女性用の白衣だった。男女の白衣がこんなに違うとは知らなかった。名前から女性と勘違いされたのだろうか。さっそく当該部署に報告して男性用をオーダーしなおしてもらった。さてこの女性用白衣、捨てても使っても好きにしていいと言われた。それで、ボタンをしなければきつくないので、しばらくは使うことにした。

senior debut

 今月から後輩の先生たちと一緒に働くようになった。幸い彼らが有能で仕事をこなしてくれるので、面倒をみる必要がない。その代わり、彼らが忙しく業務に追われている合間に、ミニ知識を教えるのが私の役目である。それはとても楽しい仕事で、自分にとっても大いに勉強になる。おかげで文献などを読む習慣が身に付きつつある。
 新入院の患者さんをとるときには、できるだけ後輩の先生にさきに診察させて、議論してから補足的に私が診察するようにしている。後輩の先生が得られなかった重要な病歴を私が聴きだすことも多く、フィードバックを与えることになっている。今のところうまくいっているが、もっと忙しくなったら私が先に診察してしまうこともあるかもしれない。

12/04/2009

submission

 論文原稿をひとつサブミットした。時間のある10月に、月末のタイムリミットを目指して必死に書きまくってよかった。他にもいくつか興味深い症例があるので時間をみつけて書こうと思う。自分が初稿を書きあげたら、nativeの先生に英語を直してもらう必要がある。しかし皆忙しいので、このプロセスに時間がかかる。ゴーサインが出れば、あとはネット上でアップロードするだけなので簡単なのだが。もし英語だけが問題ならば、さほど忙しくない先生(ひまなローテーションをしている同期の研修医など)にお願いしてしまおうかとも思う。