7/27/2024

Treatment of TCMR

  拒絶の治療は、ざっくり言えば①TCMRにはステロイドとThymo、②ABMRには血漿交換とIVIGとRTXである。とくに前者は余り変化がなく、例えば

・Banff Ia        mPSL 500mg × 3-5日

・Banff Ib        mPSL 500mg × 3-5日

                        または

                      Thymo 1.5mg/kg × 5-7回(回復するまで)

・Banff II/III   Thymo 1.5mg/kg × 5-7回(回復するまで)

 といった具合である(CJASN 2020 15 430)。もちろん、施設・医師・ケースごとに差があり、ステロイドなら250mgなこともあれば1000mgなこともある。データは質量ともに乏しく、一応KDIGOガイドラインはあるが(AJT 2009 9 S1-S155)、

・Subclinical/borderlineな急性拒絶も治療すべき(2D)

・初期治療はステロイドを推奨(1D)

・ステロイド非使用レジメンの患者には維持ステロイドの使用を推奨(2D)

・ステロイド不応例にはThymo/OKT3の使用を示唆(2C)

 といった具合である。前述のように過去には「ステロイド反応拒絶」と言われていたので、治療の基本はステロイドである。



7/26/2024

忘れられない一言 73

  外来でプレゼンしていたら、指導医が"Thank you for being thorough"と言った。カルテのどこにどんな情報があるかが少しずつ分かってきたためであるが、嬉しかった。こが先生は非常にthoroughを大事にしていることは知っていたが、すごいのは「もっとthoroughにならなければいけない」というnegative reinforcementではなく、positive reinforcementを自然にしていることだ。

 Positive reinforcementの重要性は誰だって理解しているし、自分が教わる立場ならそう言われた方が嬉しいのもわかっている。とはいえ、いざ教える立場になると、どうしても相手の(できない点、というのもよくないので)改善すべき点を指摘しがちである。にもかかわらずpositive reinforcementをするこの先生は、おそらくそうやって教わってきたのだろう。



Banff 3

  ここまで、v・i・t・g・ptc・C4dについてみてきた。これで終わりかと言うと、そんなことはない。アルファベットの練習みたいだが、他にはcg・ct・ci・cv・ti・i-IFTA・t-IFTA・ah・mm・pvlがある。詳しくはBanff財団ウェブサイトを読んで学ぼうと思うが、ざっくり言うと:

 cで始まるものは、chronicを意味する。cg(chronic glomerulopathy)は、基底膜の二重化などを特徴とする慢性の糸球体症で、graft failureの原因になる。cv(vascular fibrous intimal thickening)も、慢性拒絶のサインである。ci(interstitial fibrosis)も線維化なので、慢性変化である。

 ti(total inflammation)・i-IFTA(inflammation in fibrosis)、t-IFTA(tubulitis in fibrosis)は、慢性活動性(chronic active)TCMRに用いられる。

 pvl(polyomavirus load)は、BKウイルス腎症に用いられる。ah(arterial hyalonosis)とct(tubular atrophy)は、典型的なCNIの腎毒性である。mm(mesangial matrix expansion)は、IgA腎症の再発などで見られる。

 

Banff 2

  抗体関連拒絶は、いくつかの変遷を経ている。歴史的には、①急性の組織傷害、②C4d沈着、③血中のDSAのすべてを含むと定義されていた。しかし、②と③は不可欠ではなくなった。

 1つ目の急性の組織傷害とは、①微小血管の炎症(g>0 and/or ptc>0)、②動脈の炎症(v>0)、③TMA、④急性の尿細管傷害のいずれかをいう。gは糸球体炎のことで、全糸球体の25%未満をg=1、25-75%をg=2、75%以上をg=3と定義する。

 ptcはperitubular capilaritis、つまり尿細管のそばにある毛細血管の炎症である。具体的には、皮質にみられる毛細血管の10%以上で、内腔に好中球が集まっていることを指す。好中球が最も重度なところで3-4個集まっていれば軽度(ptc=1)、5-10個なら中等度(ptc=2)、10個以上なら重度(ptc=3)と定義する。

 2つ目のC4dとは、抗体が補体反応を惹起した際に出るsplit productのことであり、「抗体関連拒絶といえばC4dの沈着」というイメージであるが、C4d陰性の抗体関連拒絶が多数報告され、その限りではないことが分かってきた。そのため、g+ptcのスコアが2以上あればC4dに代替できるようになった。

 C4d陰性でも、抗体関連拒絶なら何かしらの特異的な反応は起きているはずである。そしてそれは、「ふむ、どんなものかな」と顕微鏡を眺めているだけでは限界がある(達人の域に達すればわかるのかもしれないが、客観性に乏しい※)。

 そこで、アルバータ大学などのグループがMolecular Microscope®というプロジェクトを始めた。腎生検の検体からmRNA発現の変化を核酸増幅法を用いて調べるもので、これにより抗体関連拒絶で変化する遺伝子産物を同定することが可能になった。

 遺伝子はレシピエントNK細胞由来(FGFBP2、GNLY)、ドナー内皮細胞由来(ROBO4、DARC)などさまざまである(AJT 2017 18 785)。こうしたgene transcrpitsの発現増加も、C4dに代替できるようになった。・・とはいえ、今はまだ研究施設での使用にとどまっている。

 ※なお筆者は、mass spectroscopyや上述のmRNA増幅法など、腎生検の検体を分子生物学的に分析する方法に期待している。それが病態解明につながる道だと思うし、病態が解明されれば診断や治療にもつながると信じたい。

 3つ目のDSAは、「抗体関連ということは、抗HLA抗体が悪いのでしょう?」というわけで考え方としてはわかるが、意外と陰性なことがある。抗体量が組織レベルのごく少量なのか、非HLA抗体(AT1R抗体など)のせいなのか、諸説あり未解明である。

 いずれにしても、現在ではDSAは必ずしも必須ではなくなっている(C4d陽性またはgene transcrpitsの発現増加で代替できるようになった)。


Banff 1

  Banffカテゴリーは全部で5つあるが、①正常組織、②抗体関連拒絶、③ボーダーラインT細胞関連拒絶、④T細胞関連拒絶、⑤BKウイルス関連腎症というわけで、中心は②と④の二つである。そこで、まず④を概観する。なお、定期的に改訂されるBanffであるが④はほとんど変化がないので安心?である。

 T細胞性関連拒絶はv(動脈内膜の炎症)の有無によりIとII/IIIに分けられる。Iは炎症がない(v=0)が、もちろん他の場所には炎症がある。すなわち、間質と尿細管に炎症がある(i≧2、t≧2)。

 間質の炎症があると、尿細管どうしがback-to-backでなくなり、リンパ球が浸潤する。t≧2とは、その範囲が皮質の26%以上(50%未満が2、50%以上が3)ということだ。

 尿細管に炎症があると、尿細管細胞のなかにリンパ球が巣食う。それが中等度(5-10個、t=2)だとIa、重度(10個以上、t=3)だとIbと呼ばれる。

 これらの変化のみならず、動脈内膜にも炎症が有るものをII/IIIと呼ぶ。こちらも動脈内膜・内皮細胞にリンパ球が巣食うが、それが軽度(内腔の25%未満が喪失)だとIIa、中等度(26-50%が喪失)だとIIb、重度(50%以上が喪失)だとIIIになる。

Banff 0

 急性拒絶のリスクは黎明期には100%に近かったが、現在では10%程度である。以前は"steroid responsive"と"steroid non-responsive"に分けられていたが、現在では前者がT細胞関連拒絶(T-cell mediated rejection、TCMR)、後者が抗体関連拒絶(antibody mediated rejection、ABMR)に相当することが分かっている。

 ※このことは、ネフローゼが依然「ステロイド反応型」と「ステロイド不応型」に分けられていることと比較して興味深い。腎生検をしても、しなくても、結局まだ病態が完全に解明されていないので、治療効果で分類するしかない(たとえ「微小変化型」と言われても、ステロイドに不応だと「FSGSかもしれない」などとなる)。

 移植時の拒絶リスクとして重要なのは、①DSA、②A/B/DRミスマッチ、③アフリカ系、④若年患者である。ただし、DSAはMFIや抗体価(希釈倍率)などにもより、MFIが3000以上だと12か月後の拒絶率が高かったという報告がある(AJT 2016 16 3458)。

 移植後の拒絶リスクとして重要なのはタクロリムスの有無とトラフ値である。タクロリムスの非使用・低用量レジメンは腎毒性を改善するが拒絶リスクを高める。またタクロリムス濃度を低下させる原因として大切なのはアドヒアランスであり、若年患者ほどそのリスクが高いとされる。

 拒絶を疑ったら、腎生検がゴールドスタンダードである。そして移植腎病理の診断は1990年代からBanffと決まっている。・・のであるが、全部一気に覚えようとすると挫折する。かといって、「じゃあ本でも一冊買って・・」などとやると、(よほど真面目な友人が抄読会でもしてくれない限りは)仕舞い込んでそのままになってしまう。

 そんなわけで筆者もすべてを一気に知るつもりはないが、徐々に身近なところからまとめてみようと思う(参照はCJASN 2020 14 430)。Let's get your feet wet(いきなり泳ぐ・潜るのではなく、まずは足だけ水につけましょう、というイディオム)!


(出典はこちら


7/25/2024

International cases

 米国の病院で国外の患者が臓器移植を受けることは珍しくない。国外の患者であっても、米国で評価され移植待ちリストに載れば、透析開始からの時間が米国の患者と同じようにwait timeとしてカウントされる。

 ただし、医療費は全額自費である。

 したがって、多いのは(非常に財力があり国民の数が少ない)中東諸国の患者で、医療費が領事館から全額支給される。首長の一族などである必要はなく、国民であればだれでもその権利を得られる(ただし、こうした国は移民に対して滅多に国籍や市民権を与えない)。

 なお、近年はMayo ClinicがUAEに分院を建設する(下図参照)など、そうした国々でも自前で移植が受けられるようになってきた。そのため、どうしても(過去の移植で高度に感作されたなど)困難な症例が米国に紹介されることが多い。


(出典はこちら


Fertility and Pregnancy

  移植後の妊娠についてのレクチャがあった。まとめると、

 妊孕性は(催奇形性のある薬を使っている)移植後6か月余りで回復するため、避妊が重要である。避妊の手段としてはIUDが効果が高く、異物だからといって移植後の禁忌ではない(CJASN 2020 15 563)。エストロゲン含有の薬剤は血栓症・血圧上昇・蛋白尿増加・SLE再燃のリスクがあるため、慎重にモニターしなければならない。

 免疫抑制薬のなかでもアザチオプリンは安心して使える薬であるが、FDAの表示は今でも「D」である。しかし、これは高用量で催奇形性を示すデータが開発初期にみられたためで、移植やそのたの免疫疾患で現在用いられる低用量では安全である。

 現行ガイドラインは移植後1年は妊娠を遅らせることを推奨しているが、その場合でも条件として、①クレアチニンが1.5mg/dl未満、②蛋白尿が0.5g/d未満、③日和見感染リスクが低い、④催奇形性の薬を使用していない、⑤1年以内の拒絶がない、を挙げている(AJT 2009 9 S1-S155)。

 妊娠関連のアウトカムについてはTransplant Pregnancy Registry Internationalというレジストリがあるが、妊娠中の高血圧は約半数に見られ、児の体重は低めである(CJASN 2020 15 120)。また、分娩は32-36週が最も多く(AJT 2013 13 3173)、移植そのものは帝王切開の適応にならない(むしろ、切開する近くに移植腎がある可能性もあるので注意が必要だ)が、帝王切開の割合が高い。

 妊娠中の拒絶は5-10%とされ、これは一般の腎移植患者と同じ確率である。また腎グラフトの予後については、非妊娠患者と比べて差がなかったとするオーストラリアの報告(JASN 2009 20 2433)があり、その後のメタアナリシス(Transplantation 2020 104 1675)でも同様の結果となっている。

 

忘れられない一言 72

  米国の外来は手厚いと言いつつも、医師が何もしなくてよいわけではない。大事な仕事の一つが薬に関するものだ。

 まず、薬をオーダーする。そして、適応病名、処方量(1日1回1錠なら、30錠・90錠など)、リフィル回数(処方箋なしで自動的に継続できる回数)、受け取る薬局(病院そばのこともあれば、自宅近く、あるいは郵送サービスの薬局なこともある)を指定する。

 そして、カルテにある薬のリストを最新のものに変更する。たいていは処方すれば反映されるが、変更した場合には今までの薬を削除し、用量を変えた(が薬は今あるものを使う)場合は新たに処方はしないのでリストを変更する必要がある。

 さらに、患者にわかるよう、AVS(after-visit summary)の注意事項に「この薬を中止する」「この薬を始める」などの文章を追記する。AVSは診察の終わりに渡される紙だが、次回診察や検査の予定だけでなく、ここに薬のリストや注意事項なども記載される。

 どの国でも、患者はたくさんの薬を処方されていることが多い。ある指導医の先生は"I am obsessed with med list"と言っていたが、そのおかげで(筆者が気づかなかった)用量調節の必要性に気づいたり、不要な薬を減らしたりするのを目の当たりにしているので、今は筆者もではなくちゃんと見るクセをつける最中である。


7/24/2024

PTH and Ca reabsorption

 PTHはどのようにカルシウムを再吸収するのだろうか。定説は「遠位ネフロンに作用する」であるが、もう少し詳しく分かりつつあるようだ(Acta Physiologia 2023 238 e13959)。

 腎臓にはPTH受容体のサブタイプPTH1Rがある。In situ hybridizationによれば、足細胞、近位尿細管(主に直部)、TAL、DCTに分布している。定説と異なり、集合管には分布していないという。また、血中を流れるホルモンであるから、内腔側ではなく間質側に分布している。

 近位尿細管でPTHがどのようにCa再吸収に関わるかは、未解明である。NHE3を介したNa再吸収を抑制することはよく知られているため、それにカップリングしたCa再吸収も抑制しそうなものであるが、逆に増加させたという報告もある。Naに依らない、細胞間のClaudin2などに対する別の作用があるのかもしれない。

 TALでPTHがCa再吸収を増加させることはよく知られているが、この現象は皮質のTALで見られるという。近位尿細管と異なり、ここではPTHがCaが流れるための電位差と細胞間のCa透過性の両方を作り出していることが分かっているが、それぞれの機序は未解明である。

 電位差については、PTH受容体が生み出すcAMPがNKCC2チャネルを活性化するのではないかと推察される(バソプレシンは、そのようにして髄質のNKCC2を活性化させる)が、皮質のTALはPTHの有無にかかわらず常に活性化されているため、別の機序があるのかもしれない。

 また細胞間の透過性については、cAMPによるClaudin-16の(217位のセリン)リン酸化が推察されているが、直接の証拠はないうえ、それだけで短時間で再吸収が増加するかには疑問もある。逆に、Claudin-16を閉じるClaudin-14を不活性化する可能性も指摘されている。

 DCTでは、Caは細胞内を通って再吸収される。PTHは、内腔側のTRPV5、細胞内のCalbindin 28K、そして間質側のNCX1の発現を増加させることがわかっている。なかでもPTHが直接作用するのはTRPV5で、protein kinase Aによる開放確率の増加、protein kinase Cによるendocytosisの抑制などが知られている。