7/06/2015

情提文例集 前編

 以下はお手紙(「情提」とは診療情報提供書の略である)の書き方と文例を研修医の先生方を念頭に紹介したものだ。

1.はじめに

 日本の病院で働く以上、避けて通れないのがお手紙を書くことである。しかもこのお手紙は医師間のやりとりであるから、古来からの伝統に従い、恭しく気を遣った文体でなければならない。また文体が面倒くさいだけでなく、患者さんのケアが抜けなく継続して行われるための重要なコミュニケーションツールでもある。

 それにもかかわらず、少なくとも私の知る限りにおいては「お手紙の書き方」という医学部の授業は聞いたことがないし、研修医になっても系統的に教わることはなく、忙しい臨床の片手間にやっつけ仕事的に書いている印象を受ける。私も研修医の先生が書いた初稿を直すことがあるが、いい加減同じことを指摘するのも疲れた。それで、ここに各シチュエーションごとの文例を示すことにした。

 ただ免責事項として、これはあくまで「私がこうしている」という一例を示したにすぎない。私はお手紙を書くのが好きだから比較的まともだとは思うが、読者の先生方の周りにはもっと美しく簡潔な文章を書く方がたくさんいらっしゃることだろう。その場合は、この文例は忘れてそちらを参照して欲しい。しかし、私から見ると上述のようにあまり注目されない領域に思われるので、参考になればと紹介する次第だ。

2.紹介受診の返書

 研修医の先生方が働く教育病院は、おそらく紹介する側よりも紹介を受ける側だと推察されるので、紹介状を持って外来を受診された患者さんを診察した後に書く返書の例を示そう。忙しい外来が終った後で残業のように書かなければならないのは辛いだろうから、要領をおさえれば診察後に2分で書けることを知ってもらえればと思う。

(文例)

[紹介元]先生 ご机下

 お世話になっております。このたびは患者さまをご紹介くださりありがとうございます。本日紹介状をもって受診されましたので、そのお返事をご報告する次第です。

 当院受診時、先生もご指摘の通り問診で[病歴]、診察で[身体所見]を認めました。また追加の診察で[当院であきらかになった病歴や身体所見]がわかり、[血液検査、画像検査など]で[所見]がみられたことから、[診断]が最も疑われると考えました。

 そこで[診断と病状]をご本人(またはご家族)にご説明の上、[転帰:①入院治療、②外来治療、③専門科へのさらなる紹介、など]といたしました。

 以上が経過です。ご不明な点やご質問がございましたら遠慮なくおっしゃってください。それでは、重ねましてこのたびはご紹介くださりありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

 ポイントは時系列にしたがって書くことだ。「受診→病歴→身体所見→検査所見→診断→転帰」という流れをおさえる必要がある(というか、手紙に限らずそれが診療の基本的な流れだと思うが)。それから、私にとっては漢字が多い文章は読みにくいので、たとえば「宜しく御願い致します」は「よろしくお願いいたします」と書く。まあ、これは好きにしたらいいと思う。電子カルテなら、こういうテンプレートを作って、カッコ内を埋めればよいようにしておくのも効率性を上げるひとつの方法かもしれない。