日本の当直医あるあるに「英語論文を読もうと当直室に持ち込んだらそこに漫画が置いてあって、誘惑に負けてそちらを読んでしまった」というのがあるそうだ(そして漫画はどういうわけか『ゴルゴ13』なことが多いらしい…)。私は論文を読むのが好きだからやっぱり当直室でも論文を読んでしまうと思うが、最近は「川辺で流れ行く水を前に穏やかでいる心」を育てなくてはならないなと痛感する。
知的なよろこびが至上の幸福だとアリストテレスも孔子もペトラルカもモンテスキューもバルザックも言っているそうだが(木原武一『快楽の哲学』)、川を流れるすべての水を汲み上げることも飲むこともできない。ただ穏やかに、水がそこに流れているということを感じるともなく感じる心の平静さなしには、知的なよろこびを持続させることはできないのではないだろうか。
だから、IgA腎症の自己免疫的機序に補体が関与していることも(JASN 2015 26 1503)、数限りない抗原をターゲットにした数限りない免疫抑制モノクローナル抗体が開発されていることも(抗CD20だけで4-5種類ある、doi:10.2215/CJN.08570814)、AJKDの教育ケースでえらい先生方が「輸液は薬、安易にだすな(考えてだせ)」というわが意を得たお説教をしてくれている(AJKD 2015 66 147)のも、どれも興味深いけれども、穏やかに涼やかに観る必要がある。