7/17/2010

Insulin pump

 インスリンポンプは、一定速度でbasal insulinを持続皮下注する。夜間は少なめ、明け方はdawn phenomenon(暁現象、成長ホルモンレベルの上昇に伴う血糖上昇)に対応するため少し多めに設定する。インスリンは100単位/ml、インスリン抵抗性が強い人には5倍濃縮のu500(500単位/ml)を用いる。そのほかに、炭水化物:インスリン比を設定して、食事ごとに摂取する炭水化物の量を入力するとpremeal bolusを計算してくれる。また一日4回程度血糖(正確には皮下間質のグルコース濃度)を測定し、correction factor(目標から何mg/dlごとに1単位追加)に基づいてsliding scaleの要領でbolusしてくれる。いままでポンプの患者さんの診察はしても、ちゃんとは教わらなかったので今回はためになった。

7/16/2010

Basal insulin

 現在米国には、NPH、Glargine(Lantus)、Detemir(Levemir)の三種類がbasal insulinとして使われている。Lantusは、pHが酸性でモノマー、中性でヘキサマーになるよう分子工学的に変化している。だから皮下の中性pH下ではなかなかモノマーにならず長時間作用を示す。Levemirはアミノ酸の一つにmyristic acidが付加されたことで、血清アルブミンに結合する。それで長時間作用を示す。さらに、Degludecという新薬が治験中(phase 2)で、これはLantusとDetemirの両方の工夫を取り入れたインスリンで、作用時間は両者よりずっと長い。だから用量も少なくて済むし、週3回でもいいかもしれない。

[2019年4月追記]上述のDegludecは、商品化されている(日本の商品名は、ライゾデグ)。

7/13/2010

thyroid cancer

 Hashimoto甲状腺炎の10%は自己抗体が陰性で、その場合の診断は甲状腺超音波による。超音波で、Hashimotoに典型的なechotextureが見られるらしい。Hashimoto甲状腺炎を疑ったら(ほとんどの原発性甲状腺機能低下症で疑うが)超音波検査を行うことはもはやスタンダードになっているが、それは前述の理由のほかに、甲状腺炎はnoduleを高率に併発しその一部は悪性でありえるからだ。
 甲状腺がんで、lobectomy(subtotal)とtotal thyroidectomyのどちらを選択するかは施設ごとの考えと患者さんの考えによって異なる。papillary、follicularはいずれも予後がよいので、どちらもあまり成績は変わらない。Totalのほうがより侵襲が大きいが、よい外科医が施術すれば反回神経麻痺、副甲状腺機能低下低下症などは起らない。
 悪性度の度合いによってTSH suppression、radioactive iodine therapyを追加する。フォローアップは画像または血清thyroglobulinによって行う。治療中、分化度が下がって(de-differentiate)anaplastic thyroid cancerになることもある。この種類だけは、残念ながらどうあっても患者さんを助けることができない。先月この病気患者さんをMICUで診た。

血糖降下薬

 今週は、1月にteachingのattendingとしても一緒に働いた内分泌先生と一緒だ。この先生はボストンの病院でトレーニングを受けただけあって、最新エビデンスに精通しているのみならず、「最近のCleveland clinicはこう言っている」「Mayoはこう言っている」と全国トップレベルの診療を知っている先生なので話が面白い。

 GLP-1アナログ(Byetta®のクラス)は何種類もの新薬がFDA治験最終段階まできており、新しいものは週1回あるいは月1回の使用でよいという。GLP-1の膵島β細胞への作用はグルコースに依存しているため低血糖を起こしにくいとされている。

 GLP-1は胃蠕動を低下させたり食欲中枢に作用して食後の満腹を早くもたらしたりするが、他にも糖尿病患者に見られる食後のparadoxical Glucagon secretionを改善する。この現象は、糖尿病患者がインスリン欠乏(膵島β細胞の喪失)のため食後のグルカゴン分泌を抑制できないためと考えられている。

 SU剤については、このクラスの多くの薬剤が血管上にあるK-ATP channelにも作用するため虚血時の血管拡張を阻害することが知られている。とくにGliburideはそれが顕著であるため、もはや使われることはほとんどない。その点ではGlimepiride(Amaryl®)が、比較的安心して使える。

 食後高血糖を抑えるにはNovolog®(超速効インスリン)、Prandin®、SUが用いられるけれど目標血糖は食事後2時間で140mg/dl以下とされている。ちなみに非糖尿病者での食後血糖は、一旦食前血糖より高くなり、そのあとインスリンがovershootするため食前血糖より低くなる。このとき、交感神経が敏感な人(不安な人、やせた人など)では汗や震えなどの低血糖症状が出ることがある。これは生理的な反応で必要に応じた対症療法を行う。

 Prandin®のクラス(Non-SU insulin secretogogue)にはもう一種類あるが、Prandin®のほうがpotentでかつ用量に幅がある(0.5mgから4mg)ので好まれている。SUに関しては、50%ルールというのがある。これは「FDAが定めた最高用量の50%で90%の血糖降下作用がある」というもので、逆にいうとこの用量から増やしてもあまり効果増は期待できない。

 Actosと同クラスのAvandia®は、心血管系副作用の件で、いままさにFDAによる調査を受けており、今週末にも市場から外される見込み。いま教わっている先生が治験データなどを読み込んだところによれば、この薬はFDAがいうほど心血管系の副作用は大きくないそうだが。

[2019年追記]上述のPrandin®は一般名レパグリニド、日本の商品名はシュアポスト。このクラスは他にミチグリニド(日本の商品名はグルファスト)、ナテグリニド(ファステック、スターシス)がある。

7/11/2010

PBL

 いまは内分泌コンサルトをやっているので、診る患者さんはprimary service(総合内科)に属している。だから私が総合内科の研修医と医学生に、内分泌科からの治療・検査プラン(レコメンデーション)をつたえる必要がある。その際には、どうしてそう考えるかを教えてあげるようにしている。

 そんなわけである患者さんのことで医学生に汎下垂体機能低下症の病態と診療について教えていたら、この医学生がものすごい切れの良い質問を次から次にしてくる。訊けば、彼女は医学部1-2年生のあいだ講義はいっさいなく、すべてPBL(problem-based learning)形式で学んだという。これはグループにわかれて、症例あるいは疾患について、各々がありとあらゆる問いを立てそれにつき調べ学び発表する方法だ。私も医学部在籍時代、これを知って自主的にこの方法で学ぶクラブ活動をしたことがある。

 このやり方は、自主的に学ぶので頭に残りやすい。また問いを自ら建てることは、医師として働くうえで生涯にわたりきわめて重要なツールなので、より実践的と言える。この学生さんが「質問しまくることでバカみたいに見えるけど、その分学べるからいいんです」と言っていたので、(そうだよね)と嬉しくなって「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だよ」と返したら、「その表現いいですね」と喜んでいた。日本のことわざとは言わなかったが、友達に広めておくようにと冗談で言っておいた。

7/09/2010

Cushing syndrome

 Cushing症候群、Cushing病について学ぶ。Cushing病と単純な肥満を見分けることは難しく、Cushingに特徴的なサインを覚えてpretest probabilityの精度を上げる必要がある。とくに重要なのはアザができやすいか、紫色で幅広い(1cm以上)striaeがあるかどうか、そしてflushingがあるかどうか。また、Cushing病・Cushing症候群は進行が緩慢(数年単位)で患者さん本人も近親者も久々に会う人に指摘されるまで体型の変化やmoon faceに気づかないことがあるという。それに対して異所性ACTH産生腫瘍は進行がとても速いことがあり(数週間)、多くの場合carcinoidあるいは肺癌によるという。
 スクリーニング試験に適しているのは1mg(経口)dexamethasone抑制試験で、前日23時にdexを内服し翌朝8時に血中cortisolレベルを測定する。早朝に来るのが大変な人は、24時間蓄尿してurine free cortisol(UFC)を測定する。前者のほうが感度は良いが、偽陽性があるので注意が必要だ。偽陽性は、肥満やうつ病でみられる。これらはACTHがやや多く分泌されていることが原因。それで、偽陽性を否定するにはCRH刺激試験を行う。これは0.5mg dexamethasoneを6時間おき2日間(厳格に6、12、18、24時)内服して副腎も下垂体も黙らせたあとで、それでも下垂体がCRHに反応するかをみる。朝6時に8錠目のdexを内服してから朝8時にCRHを静注し、15、30、60分後にcortisol レベルを測定する。肥満やうつ病であれば、下垂体が黙るのでcortisolレベルは低い。
 Cortisol産生過剰が示された後は、どこが異常かを調べる。まずACTHレベルを測定し、副腎腺腫ならばACTHは低値、それ以外ならばACTHは高値と鑑別する。副腎腺腫の治療は、患側の副腎摘出である。摘出後は対側の副腎がまだ寝ておりホルモン補充が必要だが、やがて目覚めるのでその必要がなくなる。Hydrocortisone(半減期8時間)を午前8時に20mg、午後1時に10mgというふうに内服していれば、夜間にはhydrocortisone freeになり副腎抑制が掛からない。次に下垂体ACTH腫瘍と異所性ACTH腫瘍を鑑別するために8mg dexamethasone抑制試験を行う。下垂体腫瘍はこの高用量ステロイドに負ける(投与翌朝8時の血中cortisol濃度は投与日朝8時のレベルに比べて90%以上も低くなる)のに対し、異所性ACTH腫瘍はタチが悪く、これだけやっても投与後cortisolレベルは投与前に比して40%未満しか下がらない。
 それでも判断がつかなければ、IPSS(inferior petrosal sinus sampling)を行う。これは放射線科が大腿静脈から内頚静脈を通して左右のinferior petrosal sinus(下垂体のすぐそば)にカテーテルを挿入し、さらに末梢ラインも挿入して、それら三か所から血液サンプルを同時に採取してACTH濃度を測定する。ACTHが下垂体由来であれば、下垂体からの血液のほうが末梢のそれよりACTHは高くなる(比で2:1以上)。CRHを注射して反応をみた場合も同様(比は3:1以上になる)。左右どちらの下垂体由来かも診断できる。ACTH産生腫瘍はしばしば小さく(5mm以下)MRIにも映らないことが多いので、この試験は治療上も有用である。下垂体ACTH腫瘍の治療は外科摘出、それでも上手くいかなければ副腎摘出に踏み切ることもある。異所性ACTH腫瘍の治療は由来を確かめるところから(胸部CT、somatostatin scan、気管支鏡、EGD、etc)。

7/08/2010

Growth hormone

 下垂体の話はまだ続く。IGF-1が低値であれば、GH産生低下を証明するためにGH産生刺激テスト(=ITT, insulin tolerance test)を行う。0.15unit/kgのインスリンRを静注(インスリン抵抗性の患者では0.2、インスリンにナイーブな患者では0.05)して、GHレベルが3.0mcg/L以下であれば成長ホルモン分泌不全と診断する。recombinant GHは40,000ドル/年もかかるから、治療は他のホルモン分泌不全(甲状腺、副腎、性腺など)を治療しても不応の例に限られる。GHは全般的に組織の増殖を助けるので、悪性腫瘍の患者には禁忌である。
 GH産生過剰(acromegaly)は98%下垂体由来で、多くの場合adenomaによる。IGF-1が高値の場合OGTT(75gグルコース)を行い、GHレベルが1.0mcg/L以上であれば診断する。GH産生腺腫は近傍のLH/FSH産生細胞を圧排するため、性腺機能異常を伴うことが多い。治療は手術が第一選択で、不応例にはstereotacticな放射線治療もおこなわれるが、これはまず汎下垂体機能低下を起こすと思ったほうがよい。ソマトスタチンアナログも用いられる。手術がうまくいけば、骨の異常以外のacromegalyの所見は消える。またacromegalyの患者は心血管系疾患と悪性疾患を合併している場合が多いので、スクリーニングが重要だ。

7/07/2010

Pituitary gland

 下垂体の左右には海綿静脈洞があってⅢ、Ⅳ、Ⅵ脳神経、内頸動脈が走っている。前葉はおもにLH/FSH、PRL、TSH、GH、ACTHを分泌しており、下垂体機能を評価するにはこのすべてを測定する(GHは分泌にムラがあるので代わりにIGF-1を測定する)。IGF-1が高値な場合、確認のためにOGTT(グルコースによりGH分泌は抑制されるはずなのに、GH分泌過剰時には抑制されない)を行う。TRHはlactotropic cellsによるPRL分泌を促進する。PRLはLH/FSH分泌を抑制する。それで、無月経と乳汁分泌を起こす状況のなかでは一次性甲状腺機能低下症が最も多い。
 PRL産生細胞は、視床下部からのドパミン産生ニューロンによる抑制を受けている。高PRL血症をおこす薬剤は多く、dopamine blocker(抗精神病薬、metoclopramideなど)、dopamine産生阻害剤(methyldopa)、opiates、H2 blockers、imipramines、SSRI、verapamilなど。下垂体茎(stalk)の圧迫によっても高PRL血症がおこる。これらの場合、PRL濃度は100mcg/Lを超えることはまずない。100mcg/lを超えてきたら、まずprolactinomaと思ったほうがよい。Prolactinomaの治療は、以前まで手術が主流だったが、現在ではcabergolineあるいはbromocriptineで多くの場合adenomaが縮小しPRLレベルも正常化することがわかっており、手術は内科治療に抵抗性のケースに限られる。

7/05/2010

hyperinsulinemia

 内分泌月間がはじまった。最初に受け持った患者さんは低血糖で、16年前にRoux-en-Y gastric bypassを受けた人だった。低血糖とgastric bypassでUp To Dateを検索したら、nesidioblastosisなる疾患があって、これは膵島細胞症ともよばれ、gastric bypass後におこる消化管ホルモンの異常(高GLP-1血症)で膵島細胞が過形成をおこし、高インスリン血症による低血糖がおこる。この患者さんでは血中インスリン濃度が低く、どうやらカロリー摂取不足のほうが可能性としては高いが、勉強になった。
 高インスリン血症は、必ずしもインスリノーマだけにみられるわけでなく、インスリン抵抗性の症例でも見られる。大事なことは、インスリン濃度は血糖とともに測定しなければならない。低血糖時にはインスリン分泌は抑制されているはずなのに、それでもインスリンが過剰分泌されていれば、インスリノーマやnesidioblastosisを疑う。
 血糖は正常なのにインスリン濃度が高いときには、脂肪酸や炎症サイトカインによりインスリンによる血液中から細胞へのブドウ糖の取り込みが抑制され、それを補う形で血中インスリン濃度が上がっている可能性もある(高インスリン血症はインスリン受容体のdown-regulateをおこし、悪循環になる)。
 インスリン抵抗性を測定する方法に、hyperinsulinemic euglycemic clampという試験があって、これはインスリンを一定量上静脈から流しながらその作用に拮抗して正常血糖を維持するためにどれだけブドウ糖が必要かを測定することで、患者さんがどれだけインスリンに敏感(あるいは抵抗性がある)かを調べるもの。しかし、今月一緒に働く先生によれば、こんなことしなくても、metabolic syndromeかどうかで分かるという。
 なお、PCOS(polycystic ovary syndrome)はインスリン抵抗性を合併しているが、先生によればこれはPCOSの結果なのではなく、むしろインスリン抵抗性による高インスリン血症のために卵巣内のthecal cellsが過形成・肥大を起こし、さらにテストステロンを分泌するため無月経や多毛が起こるのだという。だから治療はmetforminである。