3/16/2019

「モノ」から「もの」という、新しい神話

 MISIAの"Everything(2001年)"といえば、日本語がわからない人でも聴けば思わず涙が出てしまうであろうほど、MISIAの歌唱力と楽曲が心を打つ名作だ(写真はミュージックビデオにでてくる横浜の赤レンガ倉庫)。しかしそれだけではなく、ドラマ『やまとなでしこ』の主題歌なだけあって、その歌詞には文字通りドラマの「主題」が体現されている。





 このドラマは今では婚活や恋愛、ファッション、ロケ地、出演者の演技やその後、などで語られることが多いが、一番のテーマは「人生で一番大切なものは何か?」だ。

 その主題歌"Everything"はドラマの中で、主人公・桜子の欧介に対する「あなたが私のすべて」という思いを、歌にして間接的に視聴者に伝えている。そしてそれが、彼女がとてもそう思っているようには見えない時期(それが変化する過程がこのドラマの魅力でもあるのだが)にも流れる。「本当に大切なものは、目には見えない(『星の王子様』より)」からだ。

 お金に服に、ほしいものは沢山あった桜子。もちろんそういったものも大切だ。しかし、消費社会で手に入れる商品は、いつでも代わりの効く「モノ」である。だから私達はそこに価値を加えたり(いつどこでどんな状況でどんな理由で買ったという「意味づけ」、雪塩を使用といった「こだわり」、これが好きという「気持ち」、など)、「コト」消費を提案したりする。

 でも、もしかすると本当に大事な、かけがえのない「もの」というのは、消費して得られるものではないのかもしれない。本当に大切なものは、代わりがきかない。

 だから、本当にかけがえのない大切なものは、たった一つでも「すべて」なのだ。この歌(とドラマ)はそれを教えてくれる。そしてそれが時代と場所を越えた真理だからこそ、「新しい神話」としていまでも愛されているのかなと思う。

 こんな話をするのは、「やまとなでしこ」が医師役の多いドラマだったからではもちろんない。説明は要らない気もするが、医療者がかけがいのない「もの」である「いのち」にかかわる仕事だからだ。

 たとえば、医のアートについての教科書"Advice to the Healer:On the Art of Medicine(『医のアート』として翻訳本が刊行予定)"は、その第1章で、トルストイが晩年に書いた短編『三つの質問』に挙げられた、以下の質問と答えがケアの本質だと説く。


1. 最も大切な「とき」は、いま。
2. 最も大切な「ひと」は、そばにいるひと。
3. 最も大切な「こと」は、そのひとのためにしなさい。


 医療もまた消費活動であり経済活動なことは否定しない。それでも、「患者」と「家族」だけは「モノ」にはならない。できれば、「医療者」もそうであってほしい(図は『三つの質問』のMichael Sevierによる表紙絵)。