脱感作とは、要は抗体対策であり、抗体を抜いたり減らしたりするわけだが、このたび抗原対策の研究も進められていることを知った。 Nat Commun 16, 1506 (2025)では、Bacteroides fragilis由来のα-galactosidase(B-zyme)を混ぜ、Dextran-40という高分子こみあい(溶媒を占有させてB-zymeの実効濃度を上げること)を用いたところ、B型赤血球をほぼECO(enzymically converted O、フコースの位置がO型と違うがユニバーサルな型とみなせる)にすることができた。
さらに、臓器摘出されたものの移植されなかった腎臓をB-zyme入りの潅流液で潅流し、3時間で腎内皮細胞のB抗原をECOにすることができた。それをO型で抗B抗体価がIgGで128倍の脳死患者(もうpatientではないので、decedentと言う)に移植したところ、全身状態がわるく尿は初日すら120ml/dしか出ず、結局63時間で摘出となった。
・・のであるが、不適合の病理像はまったくみられなかった。
B抗原は48時間程度でふたたび徐々に表出されるようになり、IgG・IgM・C1q・C3も沈着していたが、C4dは陰性で、C5-9もみられなかった。
なお、研究は中国四川省で行われたが、周術期の免疫抑制はサイモグロブリン・リツキシマブ・ステロイド・(なぜか)シクロスポリン・MMFであった。63時間で摘出になってしまったので、もっと経つと拒絶していたか、意外と平気だったかはわからない。
B型だけでなく、A型の肺を酵素で同様に除去する報告もある(ただしex vivoで、実際にpatientやdecedentに移植された例はまだない)。Sci. Transl. Med.14,eabm7190(2022).
やはり、酵素で処理した後に抗原がふたたび出てくるので、それをどうするかが課題だろう(ただ、抗体も移植前に減らしてもまた増えてくることがあるのだが)。酵素を補充すれば抗原を除去し続けられるのではないかという提案がdiscussionに載っていた。
また、処理に3時間はかかるので、献腎ならよいが、生体腎でわざわざ摘出後に3時間待つのはもったいない気もする。脱感作の負担が減らせる利点との、トレード・オフかもしれない。