9/29/2008

一ヶ月

 病棟業務も一ヶ月が過ぎた。一回の当直で2-3人の入院をとった計算になり、負荷としてはかなり少ない。忙しさもかなりマイルドだったはずだ。それでも余裕はなかった、と書くべきか、とはいえ何とかやりおおせたのを良しとしよう、と書くべきか。
 英語、英語、英語である。問題がおこらぬよう、こればっかりは細心に注意を払わなければならない。聞き取れないのは仕方ない。自分が聞き取れなかったせいで患者さんや周囲に不利益がでるのはいけない。どんなときも確認が必要だ。
 感情に左右されると、落ち込んでも浮かれても英語がラフになってよいことがない。だから自分のperformanceを無駄に下げないよう、柔軟に感情を受け流す必要がある。全方向に伸びるつもりで、あちこちぶつかりながらやるのがよいだろう。

ばっさばっさ

 臆病さを跳ね返すのに良い方法は、慎重さだろうか。勇気といいたいところだが、イメージがわかない。やるべきことをやる、という意識かもしれない。病棟業務は動かなければ前に進まない。地図をもって、見通しの良い道を、準備をしてハイキングするのはたやすい。ほとんどが手探りというところで、動いて動いて草を刈り、池を発見し、壁にぶつかり回り道して、目的地にいたる道をつくるのはてごわい。
 でもそれは、こうして書いてみるとなんだか愉しそうでもある。それに相談できる人は必ずどんなときにも居る(pagerでいちいち呼び出すのが面倒で、またどれくらい気楽にしてよいか、距離感のようなものもまだしっくり分からないが)。これまで目的とすべきことがハッキリしていたのに比べると、だいぶんスローになった感じがする。それでも、やってみれば。どこにたどり着くか。

自発的に

 言われたことをするよりも、自分で考えてわからないことは相談するのが基本的態度である。『魔法使いの弟子』では、魔法を試して部屋中を水浸しにした弟子を、師匠が助け叱るが、そのあと「明日から魔法を教えてやろう」という。水浸しにしてはいけないが、自分でやってみよう、考えよう、という姿勢がないと物事は動かず成長もしない。医療現場だけの話でもない。

9/21/2008

ゆっくりと明瞭に

 いわゆるdemandingな患者家族とやりとりをするのは疲れる。当直のときなども「家族が怒って大変だ、なんとかしろ」とcallを受けることがある。どの国でも同じだし、だれとっても家族は大事であるから、べつにこぼすことでもない。問題は、どうしても言葉のことがあるので引け目を感じて対応してしまうことだ。
 このたび、退院した患者さんの家族が(入院中ずいぶん心配していたのだが)、先輩の先生が家族に電話した際に私によろしくと(thank youと伝えてくれと)言っていたそうだ。よかった。言葉も、ゆっくり明瞭に伝えれば相手は耳を傾けてくれる(だって担当医の言うことだから)。分からないことは分からないといえばよい、あとから分かれば伝えればよい。相手の身になって、きちんと喋ればよいのだ。

9/16/2008

サインアウト

 申し送りは、"Do you have anything to sign out on this patient?"というように、患者さんの病態や治療方針といった包括的なことより、「夕方に○○の検査・治療をするので結果をフォローしておいて欲しい」といった直接的な事項を申し送る。

 申し送られたチームは、新しい入院をとる合間合間に電子カルテを開いてこれらの事項を確認する。そして治療方針を変更すべきと判断すれば、必要な介入を行う。引き継いだ事項以外で問題が発生しても、もちろん対応する。そして翌朝に「検査結果は~~でした」「こんなことがありました」と報告する。

 日本の病院にくらべると、米国のサインアウトは雑に思える。たしかにcross coverには「カバーしている立場なので患者さんのことはよく知りません」というスタンスがあるかもしれない。入院を取りながらなので忙しい。皆"Cross cover sucks"とこっそり不平を言っている。申し送る側も、予測される事態を考えて的を絞ったサインアウトをしたほうがよいだろう。



当直のあらまし

 平日に朝から夕方まで入院患者さんを取るのがshort call。平日の夕方~翌朝、休日は朝から翌朝に入院患者さんを取るのがlong call(いわゆる当直)である。いずれも五日に一遍ある。short callは6人、long callは平日10人、休日14人までと決まっている。それ以上に来た新入院の患者さんは他のサービスが取る。Hospitalistとか、Night floatとか、色々ある。

 はやくに定数の患者さんを取ってしまったほうが、夜中に入院を取らずに済みラッキーである。とはいえ、cross coverの患者さんなど、夜間もそれなりにコールはあるが。全5チームのうち、当直のAチームは、B~Eチームの患者さんをカバーする。B~Eチームの医師は、帰る前に当直の者に申し送り(sign out)をする。

 さらに、全病棟とわず心肺停止など急変が起こるとCode pagerが鳴って、現場に駆けつけなければならない。当直医6-7名で構成されたチームの一員として蘇生などの対応にあたるのである(もっとも内科インターンはあまり手技などはしないようだが)。そんなわけでひっきりなしに呼ばれると一睡も出来ないようだ。今のところは寝られているが、どうなるものか。

いろんな楽しみ

 病棟業務も2週間が過ぎた。ようやく患者さんがまとまって入り、今週からの指導医が「この機会(teachingと呼ばれる病棟業務の期間)はまさにlearning experience」と、教える気満々でもあり、なんだか期待してきたものがようやく得られるのかなあという予感がしている。

 とはいえ、単に業務をこなす以上のexpectationが求められるので忙しくなるだろうし、それにより「着いていけない」感でも生じればそれなりにしんどいのだろうが。日本での研修医時代に「はじめての教育的な病棟業務の期間」を過ごしたときは、まさにその為にしんどかった。でも、それがあるから今や大抵のことは平気だし、成長もできたと思う。

 患者さんの飲んでいた薬を調べるために薬局に電話するとか、患者さんが在宅での注射や訪問看護を退院後も受けられるように各方面に電話するとか、そういう一つ一つのことは、研修医としては「できて当然」の雑用かもしれない。でも、外国に来てまもなくでロクに自分の保険やら納税やらの手続きすらままならない自分からすれば、十分に「よくやってる」と思ってよいことである。

 これからも、仕組みが違ったり言葉が違ったりで調節を必要とする点は数多くあるだろう。でも、せっかく来たことによって得られている今の教育機会・成長機会をちゃんと活かして日々を送りたい。そう考えれば、たとえそれなりにしんどい日々があっても楽しみながら過ごせるだろう。その楽しみは、各国料理が食べられる楽しみとはまた違った充実をもたらすだろう。

9/06/2008

どんどん退院

 午前6時20分。ある入院患者さんのところにいくと、症状がだいぶん快復していた。きょう退院できそうだ。患者さんによれば、入院中にはじめた薬のひとつを保険会社が承認してくれないかもしれないという。退院してからの薬は、処方箋を持って薬局で患者さんが買わなければならない。そこで承認がとれていなければ、自腹になる。
 一錠30ドルで、一ヶ月分だと大変な金額になる。続けて飲む薬ならまとめて買わないとcopay(薬局に買いに行くたびかかるお金)が勿体ない。だから退院するからには保険会社からの承認を得ておかねばならない。それでsocial workerに相談したら、各方面に電話してくれた。いろいろ大変だったが、結局患者さんが昼ごろ自分で保険会社に問い合わせて、結局保険がおりそうとわかった。話はここからはじまる。
 なんとsocial workerの方が、患者さんに「自分で問い合わせできるなら早く言え!午前中必死に電話しまくって大変だったのに!」とこぼしていたのだ。患者さんは「大変大変って、それが仕事だろうが(It's your carreer choice)!責めるのは間違ってる!」とキレており、私が昼過ぎに病室にはいると超険悪な雰囲気で両者がにらみ合っていた。
 幸い私はそんなやり取りがあったとはツユ知らず、部屋の空気を妙だと感じながらも「保険がおりてよかったですね」と伝え引き上げた。扉を閉めるなり、一緒にでてきたsocial workerの人が「ありえない、割り切らなきゃ駄目だけど、自分が午前中いかに大変だったことか!」とやりはじめた。すると部屋から患者さんがでてきて「扉の外からでも聞こえて来るんだよ!さっきも言ったけど、それが仕事だろうが!」と再びにらみ合いになった。
 患者さんの言い分がもっともだと思えるが、abuseされたという気持ちは人を非常にみじめにさせるのでsocial workerの気持ちもわかる。しかし、social workerの方に相談するのが遅れると、退院が翌日になったり、週末に話が進まず週明けになったりする可能性もあった。退院が当日決まることは珍しくないので、バタバタせぬよう問題はどんどん予期せねばならない。ちなみにこのケース、入院はたった2日前のことである。昨日まで結構sickだったので油断した・・・。

9/04/2008

サマリー

 退院サマリーをつくっている。私の先輩(senior)は、入院時サマリーを繰り返す必要はなく、検査結果を羅列するのも必要ないという。重要な所見と内容をいれて「この患者さんはこういうことがあって入院し、こういう治療や検査をして、退院時の薬はこれで、退院後は誰のところで診ます」と要約するよう言われた。
 人によってスタイルが大分ちがう。入院時サマリーが定型的なのと対照的である。電話口で即興するからかもしれない。英語で即興など最難関なので、私は文章に起こしてそれを読んでいる。ぶっつけのdictationで多少messed upしても、後からパソコン上で直せるのでいつかはトライしようと思うが、いずれにしても伝えるべき重要事項をリストアップしてからになるだろう。
 日本でも米国でも、サマリーがたまるのは一緒である。それで私は、日本にいたときから、患者さんが入院したときからサマリーを書きはじめるようにしている。米国では、入院日数が短いため多くの問題点が先送りになる(退院後に主治医がフォローする、と書いて終わり)。でもそこに明記しておけば、外来で主治医がそのサマリーを読んで診療に活かされるのでよい。サマリーは主治医にだいたい必ずFAXされる。