9/19/2017

忘れられない一言 43

 朝にEメールボックスの片隅にアナルズの最新号目次が届いていた。それをみて、ひさびさにOn Being A Doctor(Ann Intern Med 2017 167 444)を読んだ。人々の人生や社会に影響を及ぼしていないようでも、及ぼしているんだなと実感する心温まるエピソードだった。こういう話を読むと、医師のやりがいについて再認識できる。

 お酒をやめられずに肝硬変で苦しむ患者さんと、ERで同時にみた入院の一人として一瞬関わっただけだけれど、「(お酒をやめられず身を持ち崩したら)あなたの子供達が心配です」という一言と視線で、やめたというお話。そのときベッドサイドにいた息子も、そのことがあってから人を助けたいと思うようになり医療職についた。

 読んでから病棟にいくと、昨夜入院した患者さんに両手を合わせられ感謝された。「ゆうべは言葉を出したくても出てこなくてもどかしかった(がいまは話ができる)」と。家族にも感謝された。異変に気づいた家族から正確な病歴を取れたのが大きかった。行きがかりで診ることになった方で、彼らの話に耳を傾けなければ、ただしい診断には至らなかっただろう。論文に共感した。

 論文は1946年のクリスマス映画“It's a wonderful life”を引用している。天使クラレンスが、思い詰めた主人公ジョージに、自分が居なかったら世界がどうなっているかをみせる。クラレンスはそれを、グレイト・ギフトと呼ぶ。そうは感じられなくても、ひとは生きていることで多くの人達に影響を及ぼしている。

 天使に会わなくてもそれは感じられるはずだ、こんなふうに。あるいは、天使がみせてくれているのかもしれないが。