かの名ピアニスト、ウラジミール・ホロヴィッツが「エチュードのなかで最も難しい」と語り、人前で弾くことを拒んだという、ショパンの作品10、第1番。練習曲ということになっているためタイトルはないが、右手の4オクターブに及ぶアルペジオを表す"waterfall"というあだ名がついている。
このアルペジオ、一つ一つの分散和音が、指を開いて届く範囲を超えているので、手首や腕を動かさないと弾けないようになっている。どれだけ指を突っ張っても、疲れるか攣って怪我をするかで、無益である。
あの名ピアニスト、エレーヌ・グリモーは『野生のしらべ』で、「ピアニストの悲劇とは、その動きが完全に垂直方向だということだ。それはわれわれの芸術における絶え間のない挑戦だ。」と言った。この曲に取り組むと、水平に弾く力がつく気がする。ショパンが、この曲を練習すればバイオリンのようにピアノを弾けるようになるだろう、と言ったのも頷ける。
それにしても、手が届かないのに無理やり指を伸ばしても無駄(手首や腕をうごかすしかない)、というのはコロンブスの卵のような発想の転換であり、ショパンも、この練習はいままで教わったことを無しにする(un-teach)と語っていた。これは、音楽以外にも当てはまるアドバイスだと思う。
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