6/25/2016

Naked mole-rat

 やっぱり動物の話は楽しい。Science誌が2013年のBreakthrough of the Yearに選んだのはがんの免疫療法で(Science 2014 342 1432)、抗PD-1抗体やchimeric antigen receptor T cell(CARとも)など研究も盛んだが、同じ年にScienceがVertebrate of the Year(今年の脊椎動物)に選んだのはnaked mole-ratだ(Science 2014 342 1444)。

 英語を直訳してハダカモグラネズミと言ってあげたいが、和名はハダカデバネズミ、裸出歯鼠。歯がでているのには理由があって、それは彼らが地中を歯で掘りネットワークになった道を作って、コロニーで社会生活を営んでいるからだ。それもアリやハチと同じ「真社会性」をもつ2種しかいない哺乳類のひとつだ(1匹の女王と繁殖能を持つ数匹のオスがいて、残りは繁殖力のない働きネズミ)。

 大きさは10cmくらい、アフリカ東部にいて毛がなく透き通った皮膚をしている(図;本物はちょっとここには)。注目されて日本でも上野はじめいくつかの動物園でみられる。



 彼らの受賞理由は、その年に彼らの驚異的な長寿(30年以上生きる)とがん抵抗性(今年になって初めて報告されるまで1例もなかった;Vet Pathol 2016 53 691)の機序を説明する研究がたくさん出たからだ。

 リバプール大学を中心とする多研究施設が2011年にゲノム解析して(2014年にscaffoldとcontigの完成度が高まり、naked mole rat genome resourceとして公開されている;Bioinformatics 2014 30 3558)、その後の研究で細胞間基質の高分子ヒアルロナン(high molecular-mass hyaluronan)分解酵素(HAS2)遺伝子に特殊なシーケンスがあるためヒアルロナンが分解されず、細胞がヒトなどの5倍も厚いヒアルロナンに覆われがん化が防がれること(Nature 2013 499 346)、リボソームが極めて正確な転写発現能を持ちエラーたんぱくをつくらないこと(PNAS 2013 110 17350)がわかった。

 ほかにも抗がん遺伝子p16とp27が異常に発現しているとか、代謝を極力落として酸化ストレスを受けないとか(そもそも酸素の少ないところに住んでいるし;ミトコンドリアや酸化還元に関する遺伝子発現に差があるらしい)、DNA repair transcriptomesの発現がつよくDNA復元経路が活性化しているとか、いろいろある。

 なお彼らは栄養分のある地下茎を掘り当てて、その内側を食べて外側を残して成長させて、を繰り返すし、代謝を落とせるので、地下茎1本でコロニー全員が何年も食べていけるという(腸内細菌がセルロースを分解できる)。ほかにも真社会性動物に固有のフェロモンに関係した食行動があるのだがここには書かない。

 この動物は長寿とがん抵抗性だけでなく、痛みを感じない(substance Pがない)、哺乳類なのにまれにしか恒温機能をつかわない(寒いと群れでくっついて暑いと深くもぐる)、などユニークすぎる。

 ちなみに私がこの動物を知ったのは、彼らにビタミンDがないからだが、よく考えたら一生地中にいる彼らにビタミンDが必要ないのは当然か。カルシウムは受動的に吸収され、あとは骨プールと腎の出納でなんとかしているようだ。

 もっとも祖先は地上にいたのでビタミンD受容体は腸、腎、Harderian腺(眼の奥にある毛づくろいの脂をだす腺)に残っているが(Gen Comp Endocrinol 1993 90 338)。彼らだけでなくUV暴露の少ない動物(コウモリなど)ではビタミンD必要量が少ないかほとんどない。


[2019年6月追記]本物についに会って来た(写真)!いうほどグロテスクでもなく、愛らしかった。