2/20/2020

Found It

 いまでも心音は作法に従ってA(大動脈弁)→P(肺動脈弁)→T(三尖弁)→M(僧帽弁)の4箇所聴くことにしているが、診察していて心雑音が聞こえたとき、思い出す漫画がある。

 2013年、米国内科学会雑誌にWEB限定で発表された、"Missed It"だ(無料で閲覧できる)。



 
 診察で聴こえた心雑音を無視したために、手術すれば救命できたであろう重度大動脈弁狭窄症の患者を死なせてしまったという、研修医で当直していたころを回想する医師の話だ。
 
 それ以来、聴診で「あれ?」と思ったときには、「聴こえないふり」をしそうになるのを抑えて、もう一度同じ場所に聴診器をあてて、聴きなおす。そして「やっぱりおかしい」と思ったら、心エコーもオーダする。

 すると、時には上行大動脈瘤に伴う大動脈弁閉鎖不全など、命に関わるものが見つかることもある。

 米国医学部で「ヒポクラテスの祈り」と並んで唱えられる「マイモニデスの祈り」には、「見えるものを見えないと思い込んだり、見えないものを見えると思い込んだりすることのないようにしてください」という句がある(全文訳は、筆者訳『医のアート ヒーラーへのアドバイス』も参照)。

 要はそういうことだが、祈りを唱えるより漫画を読むほうが効果が高いかもしれない。聴診しながら「フッ」と画がよぎるし、そこに込められた作者の悔恨(下図)が感情面に訴えかけてくるからだろう。作者に感謝したい。