1/15/2014

忘れられない一言 10

 医師の言葉が患者さんに与える影響は、米国よりも日本のほうが大きいような気がする。たとえば入院治療計画書の入院見込み期間など、医師としてはあくまでも目安としてかなりアバウトに書いているのに、患者さんが「ここ(計画書)に何日間と書いてあるからいついつまで入院なのでしょう?」とおっしゃることは良くある。ならば、医師の患者さんを勇気づけたり希望を与える言葉も大きな影響をもつということだろうか?
 そう考えていた頃に出会ったのが、患者さんからの「患者が言いたいことを医者が言ったら患者は何も言えない」という言葉だ。長く入院してもなかなか良くならない患者さんが苛立っておられるようだったので、長い闘病生活にも関わらずなかなか良くならずお辛いのではないですか、という意味のことを聴いてこの言葉をいただいた。患者さんは諦めずに弱音を吐きたくても我慢していたのに、回復という希望を奪われたように感じてしまったわけだ。
 辛い人に「辛いのですね」と聴くなんて、ちょっとアホみたいだろうか?私はこれが「気持ちを受け止めていますよ」というための最も直接的な方法だと思う。気持ちのそういう部分に触れるので、その結果患者さんが泣いても怒っても全部受け止める覚悟は必要だが。とくに入院が長くなった場合(や予後が良くない場合)、患者さんの気持ち的な部分を避けて病気だけ診ることは、私にはできない。
 だから私は、いままで辛くても我慢していたことを知らせてくれて嬉しかったと伝え、私が希望を引き続き持っていることを訴え、辛い気持ちも含めて一緒にやっていきましょうと話を締めくくった。しかしいま思うと、長い入院治療でたしかに私は根を上げそうになっていたのかもしれない。だからそれをびしっと指摘してくださった患者さんにはいくら感謝しても足りない。患者さんの言葉もまた、医師に影響を与えるということか。幸い患者さんはそのあと快方に向かい退院された。