11/29/2018

忘れられない一言 49

 患者さんからこんな言葉を聞いたら、どうしますか。

病院っていうのはこういうとこだとつくづく分かりました

 病院は医療サービスを提供する場であって、残念ながら健康を提供することを必ずしも保証していない。数日のつもりの検査入院で、あれやこれやと問題が(検査に関係あるものも、ないものもふくめ)おきて、入院が伸びたりすることもある。入院が伸びるだけで済まない事だって、ありえる。

 冒頭の言葉は、一番は状況へのやりきれない気持ちの表出と考えられ、医療者を責めているわけでは必ずしもなかった。しかし、この言葉は同時に、医療者に直視したくない真実を突きつける。悪いことがおこらないように質を高める、それでも一定確率でおこるものは適切に対策できるようにしておく、などの重要性を改めて認識した。

 病院っていうのは、そんなに安全なところじゃない。

 でも、人と人が接する以上はせめて「癒しの家」にはなれるのかなと思う。冒頭の言葉を受け止め、その背景にあるやりきれなさを受け止め、できる最善の診療をしてせめて無事に帰ってもらえれば。そして、おたがい「大変でしたね」と苦笑して前に進めれば。





11/25/2018

忘れられない一言 48

 電子カルテの患者画面には、もちろん性別と年齢が書いてある。しかし、何歳何ヶ月まで書かれていることは意外と知られていない。「XX歳0ヶ月」と書いてある人は、その月に誕生日を迎えたばかりというわけだ。

 アメリカにいた頃に用いていたソフトでは、それを強調するアイコンが年齢の横にでて、受付の方が「誕生日だったんですね」などと声を掛けるようにしていた。素直に喜べない誕生日であっても、やはりその年まで生きてきたということはおめでたい。

 さて、これは患者さんの誕生日ではないが、わたしの誕生日に外来をしていたある時、ある患者さんが部屋に入って座るなり笑顔で身を乗り出して「先生、調子いいです!」と発言したことがあった。

 ラーメン屋さんでお客さんが食べるなりカウンターから身を乗り出して「店主、ラーメンうまいね!」と言えば、まあ、うれしいだろう。でも、ラーメンが美味いのか、お客さんの機嫌がよかったのか、お腹が空いていたのかは、わからない。

 医者も同じだ。だから、(誕生日にうれしい言葉だな)くらいに心にとどめながら、「そうですか、それは何よりですね」と返す。

 「じゃあ診るべきことがないですね!仕事を楽にしてくれてありがとうございます」くらい、冗談を言ってもよかったがやめた。実際にはいくつもの問題点について治療を行なって注意深く診ており、そういうよい日ばかりではないことはお互い分かっているので(下はイソップ寓話『メメント・モリ』、2013年ペンギン社刊より)。