電子カルテの患者画面には、もちろん性別と年齢が書いてある。しかし、何歳何ヶ月まで書かれていることは意外と知られていない。「XX歳0ヶ月」と書いてある人は、その月に誕生日を迎えたばかりというわけだ。
アメリカにいた頃に用いていたソフトでは、それを強調するアイコンが年齢の横にでて、受付の方が「誕生日だったんですね」などと声を掛けるようにしていた。素直に喜べない誕生日であっても、やはりその年まで生きてきたということはおめでたい。
さて、これは患者さんの誕生日ではないが、わたしの誕生日に外来をしていたある時、ある患者さんが部屋に入って座るなり笑顔で身を乗り出して「先生、調子いいです!」と発言したことがあった。
ラーメン屋さんでお客さんが食べるなりカウンターから身を乗り出して「店主、ラーメンうまいね!」と言えば、まあ、うれしいだろう。でも、ラーメンが美味いのか、お客さんの機嫌がよかったのか、お腹が空いていたのかは、わからない。
医者も同じだ。だから、(誕生日にうれしい言葉だな)くらいに心にとどめながら、「そうですか、それは何よりですね」と返す。
「じゃあ診るべきことがないですね!仕事を楽にしてくれてありがとうございます」くらい、冗談を言ってもよかったがやめた。実際にはいくつもの問題点について治療を行なって注意深く診ており、そういうよい日ばかりではないことはお互い分かっているので(下はイソップ寓話『メメント・モリ』、2013年ペンギン社刊より)。