5/11/2020

忘れられない一言 65

 静脈路確保を看護師さんが何度も試みて失敗したときに、ドクターが呼ばれることがある。そういう教育を受けて腕に覚えがあるドクターなら、「任せて」とまでは言わないにしても、「よし来た」と静脈路を取ろうとするだろう。無事に取れれば、カッコいい。緊急時にできれば、もっとカッコいい。

 筆者はそういう教育を受けなかったので、「皆さんがやっても無理なら、私にも無理じゃないですかねえ」と言う。謙遜ではなく、本当のことだ。カッコ悪いが、心の底では「診断が何かを考え、静脈路を確保したら何で治療するかを考えるほうが大切」と思っている。

 もちろん静脈路がなくては困るのであるが、それで困ったことはない。だいたいいつでも、経験豊かな看護師さんがいるからだ。こういう方々は、ほんとうにすごい。この間も、看護師さん数名と腕に覚えのあるドクターが失敗した困難症例(筆者はもちろん、試みなかった)で、こともなげに静脈路を確保したER看護師さんがいた。
 
 ありがたく、ヒーローインタビューのようにその人ににどんなことを考えて確保したかを聴くと、

 「無心でした

 という(血管が破れないようには注意したそうだが)。Malcolm Gladwellの"Blink(2005年刊、写真)"もそうだが、経験を積んで積んで積んだ方は、そういうことをおっしゃることが多い。
 
 手技だと分かりやすいが、そういう「眼力」は内科診療にもあるはずだ。静脈路確保は無理でも、そっちのほうで日々腕を磨いていきたいと思った。