12/11/2007

学習された無力さ

 うつ病は、きわめてありふれた病気であり社会に与える影響も大きい。今週の医学雑誌が最新の基礎研究の結果を紹介していた。いままでうつ病はセロトニン、ノルエピネフリンという二つの神経伝達物質で説明することが多かった。セロトニンは、おもにムードにかかわり、ノルエピネフリンは意欲や情動にかかわるという。それで、これらが枯渇しないようにする薬がうつ病治療の基本になっている。
 しかしこの薬は一定の効果があるものの限界があるようだ。別のメカニズムもはたらいている可能性がある。雑誌にのっていたのは、ネズミをつかったlearned helplessness(学習された無力さ)についての実験。避けられないストレス下におかれると、ネズミはそこから逃れたり克服したりすることをくりかえした末にあきらめじっとしてしまう。
 この状況をもたらす脳内の仕組みが解明されつつあるという。ventrolateral aqueductal grayという場所でsubstance Pがつくられ、それがnucleus accumbenceという場所で神経細胞のneurokinin1受容体に結合するとGABAという物質が放出され、あきらめムードが形成されるという。まだまだ臨床応用には遠いが、これにかかわる薬ができれば、うつ病をあらたな機序でなおせるかもしれない。