10/05/2010

life support

 ICU勤務では、患者さんが意識不明で話すこともできず管につながれて、反応といえばモニター(心電図などバイタルサインを持続的に反映するパネル)がピコピコするだけという状況で、看護師さんに言われるままやれ「(患者さんの)血圧が高いからなんとかしろ」「あばれているから鎮静剤をオーダーしろ」「動脈ラインが抜けたから新しいのを入れろ」だの言われて応需診療する日々だった。一部だけをみて全体をみないような、倦んだ気持ちになった。さらに倦むと、患者さんより看護師さんを治療しているような憂鬱な気持になった。
 ICUでは「感染症なら抗生剤」、「悪性腫瘍なら抗ガン剤」という根本的治療だけでは済まず、患者さんの循環・呼吸・栄養・腎機能・その他をどれだけサポートできるかという話になってくる。サポートという言葉は日本語の「生命維持(装置)」と置き換えていい。たとえば肺炎にしても、人工呼吸器はサポートであって根本的治療ではない。患者さんの状態が自力の呼吸では酸素を十分に取り込めないほど悪いので、人工呼吸器で助けてあげるのだが、あくまで時間稼ぎでありその間に肺炎が良くならなければ仕方ない。
 人工呼吸器のサポートでも不十分なら、腹臥位にしたり(roto-prone bedという患者さんを回転させる特別のベッドがある)、ECMO(人工肺、血液を取り出し膜を通して酸素化して再び送り返す機械)につないだりする。先月も、重症レジオネラ肺炎に横紋筋融解を合併した症例があって、ECMO導入になった(ので外科ICUに移ってしまった)が、時間稼ぎの間に肺が回復してくれればよいと思う。心臓についても同じように各種サポートがあり、腎臓についても透析(通常透析、持続透析)などサポートがあるが、あくまでサポート、あるいは代替手段である。
 もちろんサポートの仕方次第で患者さんの救命率は上がる。いろいろな研究や文献により、酸素濃度はどう維持するとよい、人工呼吸器はこう使うとよい、貧血はこのレベルで治療するとよい、血圧低下はこの薬で対応すればよく、治療の指標はこれを使うとよい、栄養はどの方式で与えるのがよい、といった色々なことが分かってきている。正しいサポートの仕方を学ぶことが、ICU診療で最も大事なことは言うまでもない。私もその理解により今までよりは気持的に希望を持って瀕死の患者さんを助けられるようになったし、そう簡単にはあきらめずどこまでもサポートしてきた。
 しかし「サポートもいいけど、いま何が起きていてどんな根本的治療がありえるの?それがあるならいいけれど、ないならサポートだけしてどうなるの?」という問いもとても大事である。そして残念ながらpoint of no return、このプロセスは不可逆的でありいかなるサポートもそれを戻すことはできない、という時がある。そこからは治療の目的を根治から患者さんの苦を除くことにシフトすることも提案しなければならない。