外来患者枠は1人10分(30分枠に3人)あればよい方だから、どれだけ効率化しても外来はどうしても「押す」。それで、12時予約の初診患者さんを診るのが14時になることもある。
そんな時は座りっぱなしで尻が痛く、消耗で頭がぼーっとしているので、(身体所見の診察か・・またにしようかな)と思うことも、正直ある。しかし、それでも診察したときに限って、大事な所見があったり、初対面の患者さんから「私は今、あなたが信頼できるドクターだと結論しました!」といわれたりする。
筆者は日頃から、「効率化(オーダーセットやテンプレート)」、「チェックリスト化(抜けを防ぐ)」、「優先順位づけ(事前に出来ることは事前に、後でよいことは後にする)」などの、いわゆる「ライフハッキング」を礼讃している。
そんな筆者であるから、上に挙げたエピソードで伝えたいメッセージも、「燃え尽きるまで闘いましょう」ではない。むしろ逆で、「その時その場所でその人に必要なことをするのが、結局一番の近道ではないか」ということである。
一歩踏み込んで診察することで診断に至れば、不要な検査を避けることが出来る。また初診患者の信頼をその場で得ることは、以後の診察をずっとスムーズなものにしてくれるだろう。
なお、こういう(やっぱりちゃんとやろう)という態度を指す用語に、「プロフェッショナリズム」がある。これは「熱血」とはちがい、「やるべきことをやりましょう」というクールさの漂う言葉だ。
これを最初に講義してくれたのは米国で初期研修した病院のプログラム・ディレクターであったが、彼のいう定義がまさに、「押した外来の最後の患者の厄介な問題を、見て見ぬ振りしないこと」だった。
その卒業時には「プロフェッショナリズム賞」という(履歴書には書けないが)名誉な賞をいただいたものの、以後プロフェッショナリズムについて講義を受ける機会もなく、結局何なんだろうと考え続けてきた。
『医のアート ヒーラーへのアドバイス(原著はAdvice to the Healer: on the Art of Medicine)』を訳そうと思ったのも、そのためである。さまざまな側面から詳しく例示されており、これを訳してようやく「こういうことなのかな」とつかめた気がする。
本書は4月下旬に中外医学社より刊行される。もし参考になれば、幸いである。