4/04/2019

サイエンスでアートに触れる喜び

 通勤路に桜並木があると、気軽に花見ができて便利だ。ある朝、「今年も咲いて偉いねえ」と思いながら桜並木の下を歩いていると、桜が花びらでなく花(blossom)単位で落ちていた(写真)。




 なんだか可愛そうになって、手にとってみた。すると、花びらの間から同じ数のガクが出ている。そうとは知らず驚いた私の頭の中に、下図のような二つの5角形(赤、茶)が思い浮かんだ。



これらの頂点、あわせて10個をつなげば、下図のような10角形(緑)ができる。ここまでくると、だいぶん円に近い。



 こうして倍々にしていけば、辺の総和が限りなく円周に近づく・・・とぼんやり思ったころ、職場に着いた。それからは、桜や多角形のことは忘れて仕事していたが、お昼休みに「2のn乗」角形の辺の総和をnで表現して、nを無限大にすればいいじゃない?と思いつき、(お薬屋さんの説明でもらえるメモパッドで)作図を始めた。

 そのためまず、「2のn乗」角形の一辺a(n)から、「2の(n+1)乗」角形の一辺a(n+1)を求める。nが2の場合を例にすると、オレンジ線から緑線を求めることになる(nがあがっても、同じ要領でできる)。

 


 そのために下図のように補助線をひくと、ピタゴラスの定理などから赤・黄色線が以下のように決められる(赤とピンクの和は、円の半径だから1)。



 
 ここで、赤・黄色・緑線でできる三角形についてもういちどピタゴラスの定理を当てはめると、下図下段のような漸化式ができる。




 エヌが2の時、a(2)は√2(一辺1の正方形の対角線)。「2のn乗」角形の辺は「2のn乗」個あるから、その一辺の長さa(n)に「2のn乗」をかければ辺の総和になる。いっぽう、エヌを無限大に飛ばして近似する円は半径1だから、2π。整理すると、下図下段のようなπにいたる極限の式ができる。




 泣きそうなほど美しいが、これはちょっと、手計算できない。電卓でも(関数電卓でも)、煩雑だ。それで、エクセルのマクロ機能をつかってnを上げていった。すると、256角形までで小数点以下4桁までπがでた(下表の赤字)。




 さらに、16384角形まで行くと、小数点以下7桁までπがでた。



 
 筆者には、「自然に数学が隠れている!」というような「サイエンス」っ気は一切ない。あくまでも、「アート」としての花鳥風月を愛で、堪能している。こういう「花見」もあるということだ。

 そしてここまでたどり着いた時、筆者はじつは「ああ、生きててよかったなあ」と思った。医学の父ヒポクラテスは、「人生は短く、アートの道は長い」と言った。この感情が、「アート」に触れる喜びなのかもしれない。


[2019年4月13日追加]上記のようなことだけでなく、桜について知ってほしいことが、ほかにも沢山あることがわかった。阿部菜穂子著『チェリー・イングラム 日本の桜を救ったイギリス人』(2016年刊、岩波書店)を、ぜひ読んでほしい。英Economist誌が"You may never look at cherry blossom in the same way again"と英訳本を紹介しているのもうなずける。


[2019年6月6日追加]上記の「2のn乗」角形と「2のn+1乗」角形の面積比を求めて、nを無限大に飛ばすことで得られるのが、Viète(ヴィエト)の公式である。これは1593年に発表された、nを無限に飛ばして円周率に近づく人類初の公式だった。原始的だが、2とルートだけでπにいたる美しい式だ。


ただし、
a(n) = √(2+a(n-1))
a(1) = √2 


 ただし、この方法論ではいくら工夫しても小数点以下の数10桁までしか収束しない。飛躍的に正確さが増すのはアーク・タンジェントを用いたマチンの公式(1706年)の登場後になる。また、100年たってオイラーが三角関数の公式にまで一般化した(下記のエックスが「π/2」の場合がヴィエトの公式になる)。




 筆者は「数学好き」というわけでは必ずしもないが、こういうかたちで数学と接するのは、やはり好きである。