7/02/2019

オスラー卿を知っていますか

 米国内科学会誌に「ウィリアム・オスラー卿は、RVUを稼いでいたか?」という投稿が載った(Ann Int Med doi:10.7326/M19-0665)。RVUとはrelative value unitの略で、要は「診療報酬の支払い点数」のことである(こちらも参照)。

 研究と教育に身を捧げ、大学にとって(医学の発展にとっても)欠くことのできない財産であったオスラー卿。しかし多くの活動には経済的な「生産性」がなかったので、現在のスタッフ選考基準からすれば彼は大学に居続けることができなかっただろうと投稿者(なんと、循環器内科医である)は言う。

 今年はオスラー卿の没後100年にあたるが、その間に米国の医学部と教育病院の関係、社会・医療制度などは大きく変化した(医学教育と社会の変化について歴史的に論じたKenneth M. Ludmererによる2005年の大著、"Time to Heal"の要約目次も参照)ので無理もない。

 しかし投稿者は、「RVUもいいが、今こそもっと大切なバリュー(教育、メンターとしての関わり、コレジアリティ=医師どうし良好な関係を築くこと、研究、患者ケアなど)に立ち戻る時だ」と言う。さもないと、100年後の人々に「どうしてそんな状況なのに何もしなかったのか?」と不思議がられてしまうだろう、と。


 没後100年、私達も改めてオスラー卿の人生を顧みてはどうだろう。重厚な故・日野原重明先生の訳した講演集『平静の心』(新訂増補版は2003年)、今年出た平島修先生、徳田安春先生、山中克郎先生著『こんなときオスラー:『平静の心』を求めて』は、既にお読みの方も多いだろう。また訳書『医のアート ヒーラーへのアドバイス』4章にも、彼の生涯から学ぶべきアドバイスをまとめてあるので参考にされたい。

 日本内科学会の専攻医登録評価システム(図はロゴ)もその名を冠するほど、日本の医療とつながりの深いオスラー卿。今後、米国内科学会だけでなく日本の内科界でも投稿のような議論が広がり深まればなと思う。