患者さんとその家族に「あなたは医学部をでたのですか」と聞きたくなる時がある、とは同僚や先輩のあいだでよく聞かれることだ。informed consent、informed decision、治療選択肢や状況を知らされた上で決定するのは患者さんである、というのはもちろん筋だが、ときに医療者からするとirrational、または医学上間違ったことを患者さんや家族が主張することがある。なんというか、ある仮説を信じ込んでいることがある。
今日もある患者さんの家族(この病院の看護師)がやってきて、今している治療はおかしいと言いはじめた。不整脈の治療で薬を投与した数分後に、この薬はほかの種類の薬と違って遅効性なのだが、「私の経験ではこの薬は即効性だ、いまだに効果が現れないのはおかしい、ほかの薬を使え」という。ICUで勤務されたこともあるそうで、自信たっぷりだ。ICUの看護師さんが経験豊富なのは確かだが、この認識については正しくないように思われた。
「あなたは医学部をでたのですか」「あなたの知識は間違っている」と言い返すこともできたが(そうした同僚もいる)、ケンカしても仕方ないので「それは私の理解とは違う、私が間違っているかもしれないが」といった。彼女が望むように、循環器科の先生に電話で延々と直談判してもらった。その間、自分の知識が間違っていないことをテキストで確認しつつ待っていると、10分くらいして薬が効いてきた。テキストによれば私の知識も間違っていなかった。
彼女は私を見て肩をすくめた。私も同じしぐさをした。彼女も私も「言わんこっちゃない」と思ったのかもしれない。これからも彼女は患者さんの治療方針について彼女なりの意見を伝え、ときに命令し、ときに私たちの治療方針に反対してくるだろう。それは仕方のないことだ。患者さんはほかの病院から転院してきたが、前の病院でもトラブルがあったようだ(彼女によれば医療過誤のような)。とにかく患者さんがよくなることがゴールで、一生懸命治療すればそういうsocialな面もうまいことおさまるだろう。