4/17/2009

往来

 ICUの患者さんは、救急外来から入院する場合もあれば、他の病院から直接搬送される場合もある。また一般病棟から急変して運ばれたり、手術室から(回復室を経て)運ばれる場合もある。出て行くときには、たいてい一般病棟に転棟する。あるいはホスピス、リハビリ施設、LTAC(long term acute care、人工呼吸器などの高度ケアも行える亜急性~慢性期施設)などに転院する。
 どちらにしても、ケアが継続して行われるようなコミュニケーションが必要である。転棟するときはtransfer noteなるものを書き、転院するときは転院前にdischarge summaryをディクテートして、即日typeされたものを印刷して行先施設に渡す。私はtransfer noteを書くのが好きである。何を考えて何を行い結果どうなったか、そして今後どうするかを整理するので頭がすっきりする。なお書き出しはThank you for taking over the care of ~、にすることに決めている。
 そういえば米国のほうが転院・転施設のプロセスは簡易である。ケースワーカーが看護師資格をもっているためかもしれない。Placementをお願いします、とオーダーすると勝手にカルテの全コピーを先方に送り(referral)、受け入れが済むと保険関係の手続き(転院するにも保険会社のapprovalが要る)をして、それで終りである。「明日の何時に車を手配しておいた」「家族にも伝えてある」と矢継ぎ早に仕事が終わっている。
 ところが日本では、まず医師が「診療情報提供書」を書く。これがまず大変である。医師間の文書に特有の文体がある。そしてケースワーカーがそれを先方ケースワーカーに送り、先方の医師ないし病棟がこれを読む。そのうえで可否を先方ケースワーカーに伝え、こちらの病院のケースワーカーがそれを聞いて医師に伝える。残念ながらケースワーカーにあまり裁量がない。転院搬送の手続きも医師がして、転院に医師が付き添わねばならない場合も少なくない。
 ひとつには、米国では病院が経営上転院すべき患者を長く置いておく余裕がない。保険会社が入院費用を払うかどうかを別に決め、「もはやこの患者は入院に値しない」と判断すると以後の費用は病院持ちになる。米国の入院費用は高額である。また一つは、コメディカルの裁量が大きい。医師は医師にしかできないこと(医学知識と経験に基づいた方針決定、それに手術や手技)をする。他でもできることは、他の人にしてもらう。