New England Journal of Medicineが酸塩基平衡と電解質異常の特集を組んだ。レビューも詳細だし、ここに訳したいくらいだ。ケースは難解かつインタラクティブで結構なことだ。ケースをICUのローテーターと一緒に解いてもいいかもしれない。しかしケースはともかくレビューを訳すのは労力の割に合わないし、酸塩基平衡と電解質異常について自分なりに何かここに書こうかとも思ったが、すでに良書秀書が山積しているのでやる気がいまひとつ出ない。
そんななか、医局の本棚を見やるとRichard Colgan先生が書いた"Advice to the Young Physician(on the Art of Medicine)"が目にとまった。医学教育においてアートの重要性が取り上げられて久しいが、やはりサイエンス先行(医学発展のためにそれが必須なのはもちろんだが)、あとはシミュレーションで、アートを主唱する人は少ない。さらに、アートが大事という人が言うこともやってることも今ひとつ腑に落ちない。それでこの本を買ったのだった。
第一章では著者が自信の半生を振り返りこれから書く内容について述べているのだが、最後の段落、とくにそこでの引用句(下線部)が心に引っかかった。
Let me close by repeating my initial reflection - I am not a complete physician. I continuously strive to be a better physician and a better healer by learning from my colleagues, as well as from my patients. I share with you what I believe to be compilations of some of the greatest medical teachers, those who I consider to have exceptional words of wisdom to pass along to all of us. I have much to learn. So do you. But that should not stop us. In the words of English poet and playwright Robert Browning (1812-1889), as he wrote of the poet and scholar Abraham ibn Esra (1092-1167) in the poem Rabbi Ben Ezra, I confess to you, "That which I have strived to be, and am not, comforts me."
「自分がなろうと努力している、でもまだなっていないもの、それは私を落ち着かせる」とでも訳そうか。Comfortだから快適にする、でもいいだろう。自分も他人も完成品ではない。向上は生涯つづく努力なのだから、燃え尽きないように快適なゾーンでやることが大切だ。
この本はこのあと、古今東西の名医・名教師を紹介してから、コミュニケーションなど実践的なアドバイスに及び、さらにはprivate practice時代に経験した智恵(医療訴訟の対応などもふくめ)を余すところなく教えて最後にhealerとは何かをつづり締めくくる。和訳されていなかったら、この本こそその価値があると思うが、まあそれはさておきまず自分で読んでみよう。