10/31/2014

忘れられない一言 15(aka ヒポクラテスの警句集 2)

 それからこの警句集は観察の重要性を教えてくれる。200以上ある警句のほとんどは「尿の表面に泡が浮く人は腎臓の病気で慢性なことがおおい」とか「生まれつき太った人はスリムな人より早死しやすい」とか「肺炎が胸膜に達するとやばい」とか「宦官は痛風と禿げにならない」とか、観察によって得られた知識の集積だ。なかには「強いワインを飲むと空腹が治る」とか「月経を止めたければ胸に巨大なカップをつけろ」とか笑えるものもあるが。
 観察の重要性といえば、私が米国でインターンをしていたとき、いつもアテンディングが病室の入り口に張ってある"contact precaution"という札を見て「どうしてこの患者はcontact precautionなんだ?」と訊かれ答えられずドギマギしたのを思い出す。今は電子カルテにデカデカと"MRSA"とか"VRE"とか表示される時代になったからそんなことはないのだろうが。
 それにしても指導医の回診ではいつも、彼らの観察眼に驚嘆させられた。点滴のラベル、ライン、モニターを瞬時に見て取り「いつまで心電図モニター(あるいは膀胱カテーテル、Aライン、CVライン)が必要なの?」と訊いたり、机の本や所持品、簡単な問診から患者の社会文化経済的背景を診て取ったりしていた。私もそうなりたいと努力してきたつもりだが、まだまだだ。