12/01/2014

医療過誤 1

 医療過誤を避けてつねによい診療を選択できるに越したことはないが、医師は経験数と実力に関わらず、よい診療をして診療録をつけていても、それでも訴えられる。この本によれば医療過誤は人身傷害(personal injury)、不法行為法(tort law)の範疇にはいり、①過失(negligence、損害を与えるかもしれないと予想できるにもかかわらず不注意によりそれを回避しないこと)、②厳格責任(strict liability、たとえ過失や悪意がなくてもその行為の結果発生した損害に責任を問うこと)、③故意による不法行為(intentional torts)に分類されるという。
 医療過誤は患者が医療者が過失を犯したと主張した場合に起こる。過失を証明するには、①裁判所はその医療者が、彼または彼女と同等のトレーニングと経験をもった人が類似した状況でするであろう標準的な治療から逸脱していることと、②その結果患者に害が及んだことを示す必要がある。それでたいてい医療訴訟では鑑定人(expert witness)として呼ばれ証言させられる。なにが「標準的な治療」なのかは医療職ギルドによって規定されるが、このように身内の意見が大きな役割を果たすのは医療訴訟の特徴ともいえる。
 医療過誤がおこったらどうするかを説明する前に、医療訴訟は起こらないに越したことはないわけで、著者はそれについて強調している。言うまでもないことだが、鍵はよい患者(と家族)とのコミュニケーションだ。誰だって間違えは起こすが、医師・患者関係が良好に保たれていれば、それが訴訟に至るのはごく一部だ。それは、おおくの場合に患者は医師を尊敬し信頼しているからだ。そのためにも、満足のいく医師・患者関係を平素から維持することは、よい診療をおこない正確なカルテを書くことと同じくらい重要だ。
 しかし、初診で命に関わる疾患を診断した場合など、コミュニケーションをとる時間が十分にとれないこともあり、このような場合は訴訟に至りやすい。たとえ時間がなくても、いいづらくても、患者(と家族)に事の重大さを説明し理解を共有することは医師の責任である。これを著者は"hanging crepe paper(ちりめん紙を掛ける)"と比喩している。これは米国で昔、病人の死期が迫ると家の前に黒いちりめん紙のリボンを掛けた慣習に由来するそうだ。