"Little less conversation"といえば、2002年にJunkie XLがアレンジしたプレスリーの曲で、「little less conversation and little more action please(お話もいいけど行動しましょう)」という歌詞が繰り返される。私はまだ研修病院にいて「頭とお口もいいけど手と足も動かしながらね」とかそういうことも一応指導する立場にあるので、指導させていただいている。といっても、お口で言うだけではできるようにならないので、手と足を動かしてお伝えするようにしている。
頭で考えたことを本当に実現するから人類はここまできたのであって、空も飛べるし海底にももぐれる。その道のりは時に困難だけど、いつかどこかで行動しなければ始まらない。それを例示するお話として、ハッブル望遠鏡のことを読んだ。宇宙望遠鏡の概念は1923年から提唱されていたが、ロケット技術の進歩で現実味をおびて戦後にプロジェクトがはじまった。NASAは1962年にOrbiting Solar Observatory、1966年にOrbiting Astronomical Observatoryを打ち上げ実験して、1968年に本格的にHubble宇宙望遠鏡計画がはじまる。
望遠鏡設計だけでなく、地上ソフトウェア開発機関であるAURA(Association of Universities for Research in Astronomy)コンソーシアムにより運営されるSpace Telescope Science Instituteも1981年に設立された。AURAはアメリカ39の大学と7の国際学術機関からなり、技術開発を独り占めしたかったNASAと学界の権力争いで生まれた。完成後も1986年のチャレンジャー号事故で延期され、窒素充填室での管理費用だけで月600万ドルを払いながら1990年にディスカバリー号で打ち上げられた。
しかし、よく知られているように鏡面に0.0022mmだけ設計より平らな歪みがあって解像度が5%に低下。修正ソフトウェアの開発では限界があり、1993年に修正光学系COSTAR(Corrective Optics Space Telescope Axial Replacement)を設置する初の船外ミッションが行われ成功。以後バッテリー、メインカメラ、ジャイロスコープ、太陽光電池パネルなどを交換する船外ミッションを次々に成功させた。2003年のコロンビア号事故で中止されていた最後のミッションが、2009年に世界中の熱望で実現した。軌道旋回などによる機体の劣化・破損により徐々に高度を下げて2021年までに地上におちると予想されているが、今のところなんとか機能している。
考えていたことを、本当に実現してしまった。これでブラックホール理論など頭のなかで考えられていたことが実際に裏付けられた。またハッブルの名前のもとであるアメリカの天文学者Edwin Hubble博士が証明した「多くの『星雲(nebulae)』は天の川の外にある銀河である」という説も、ハッブルによって綺麗に映し出された。そう、綺麗といえばハッブルのデータは地上の誰もみることのできない、また想像することもできないほど美しい。こんなものが普通にJPEGフォーマットで送られてくるんだからすごい(ハッブル・ヘリテージ・プロジェクトとして管理されている)。
ハッブルが落ちたらどうしよう?James Webb Space Telescopeが2018年に打ち上げ予定だ。いまのところ大きな宇宙事故がないので、ものすごい大恐慌か戦争がおきなければ大丈夫だろう。ハッブルは直径2.4mの一枚鏡だが、これは6.5mで、六角形の鏡が複合した形をしている(図)。またハッブルは大気圏上層の近いところを周るが、これはもっと遠い第2ラグランジュ点付近を周る。しかしこの宇宙望遠鏡の開発には、ヨーロッパ(EU加盟国も非加盟国も)とアメリカが関わっているのに、日本の名前はない。お金ならあるだろうし研究者の先生方もいるだろうに。自前でやるつもりなのか。