8/10/2016

Price of Miracle

 医学に興味を持ったきっかけはDNAの二重らせんとセントラルドグマ(DNAからRNAへの転写、RNAからたんぱく質への翻訳によりいのちと身体ができる仕組み)。医療に興味を持ったきっかけは南木佳士先生と若月俊一先生(写真;佐久総合病院サイトより)。この出会いがなかったら高校3年生の夏に文系だった私が医学部進学に転向することもなかった。
 わざわざ縁もゆかりもない北海道大学医学部を受験したのは、当時そこでおそらく日本初のADA欠損症に対する遺伝子治療が行われていたから(であって、佐々木倫子『動物のお医者さん』とは関係ないはずである)。残念ながら受験前に凍結した路面で滑り、そのまま試験も滑ったが、もし受かっていたら私はここにはいない。
 さて北大医学部が遺伝子治療を行ったのは1995年だが、それから時を経て欧米を中心に遺伝子治療が国と製薬会社主導でどんどん進んでいる。血友病B、ADA-SCID、家族性高カイロミクロン症(Glybera®)、遺伝性網膜病(SPK-RPE65®)。SPK-RPE65®などは目が見えないひとの目が見えるようになるんだから奇跡だなと思う。
 で、またお金の話になる。遺伝子治療は単一遺伝病を対象にするので患者数が少なくカネになりにくい。しかし単価を吊り上げると誰も買わない(Glybera®は100万ドルで発売して2012年から1件しか売れなかった)。そこで企業がコストダウンの努力をしつつ導入した概念がoutcome-based systemという。
 要するに「お薬は高いけど、これで治って通院加療が不要になって、患者さんが働くなら社会として安いでしょ」ということだ。それでC型肝炎のDAAに法外な値段がつく。しかし治療する医師もハッピー、製薬会社もハッピー、患者さんもハッピー、保険と国もハッピー、勤務先もハッピーで社会全体が「三者一両得」みたいなことがほんとうにあるのか。有限な財源をどうするか、倫理の話だなと思う。