10/19/2016

Smile, what's the use of crying?

 チャイニーズ・ハムスターは中国北部とモンゴル原産で、ハムスターよりもマウスに見た目は近い。この卵巣細胞が1950年代から実験に使われていて、CHO(Chinese hamster ovary)と略されている。が、それもさることながら意外に知られていないかもしれないのは、この動物が飼い主の指につかまる時にだっこちゃんになることだ(写真)。ちなみにハムスターはhamsterだがモルモットはGuinea pigといい、前者はマウスと近縁のげっ歯類で雑食でcrepuscular(薄明薄暮に活動する)だが後者はマウスと遠縁のげっ歯類で草食で完全にdomesticated(野生に存在しない家畜愛玩動物)だ。

 ハムスターを飼っていると、心が優しくなるのだろうか。それとも、心優しい人がハムスターを飼うのか。患者さんが自然と心を開いてくれる心の優しい人に「小さい時にペットとか飼ってましたか?」と聞いたら「ハムスターを飼ってました」という答えが返ってきた。動物園で子供が小動物とふれあう機会をつくったり、小学校で飼う(いきものがかりは金魚に餌をあげていたとか)ことの有効性を示すのに論文は不要だと思う。欧米で動物を病棟や空港や大学の学生相談室に置いてイライラや不安を和らげる試みがすでに行われている。

 CHOといえば前述の卵巣細胞や、炭水化物(炭素、水素、酸素の意味)を指すけれども、いまはチーフ・ハピネス・オフィサーの略でもある。デリバリング・ハピネスという社員の幸福度をあげ笑顔で生産性を上げるためのコンサルタント会社にある役職だ。Googleにはジョリー・グッド・フェローという役職もあった。「笑っちゃだめです、仕事中ですよ」から「笑いなさい、仕事中ですよ」の時代になったのか。確かに応対が笑顔のほうが応対が無愛想よりもいい。医療も同様と思う。ただし、心からであるように(笑いを強制されると燃え尽きの元になるらしい)。


10/06/2016

忘れられない一言 37

 大学1年のとき、EEP(アーリー・エクスポージャー・プログラム)という実習があって、助けが必要なひとたちの介助などを一週間させていただいた。去り際にスタッフの方に「この子達に手紙を書くとは言わないでほしい、言ったことをあなたたちが忘れてしまっても、この子達は楽しみにいつまでも手紙を待ってしまうから」と言われた。逆に言うと、手紙を書いて投函さえすれば、日本の郵便は優秀だから受け取り手まで届く。そしてそれがその人の心、ひいては自分の心にまで化学反応をおこすことを、当時は知らなかった。

 九州にいた研修医1年目のとき、腎臓内科志望でもないのにどういうわけか野生のイルカがみたくなって一人で天草に行き(写真)、東京の祖母に絵はがきを出した。手紙がEメール、SNSなどにかわって久しいが、旅行先から親しい人に絵はがきをだしたくなる人はまだ多いのではないか。自分が何を書いていたか覚えていないが、どうやら仕事の話も書いていたようで、祖母からの返事はこうある。

知樹さま。やっぱり知ちゃん!が呼びやすいです。ご老人と接するのは、こんどがはじめてではないにしても、患者さんとなると心づかいも大変でしょうネ。知ちゃんは、やさしいから、その気持ちが通じて、患者さんもうれしいことでしょう。こちらは淋しくなりましたけど、西に向かって(お台所が西になります)「知ちゃん、ガンバレ!」を繰り返しています。
天草にいらっしゃったとか、ステキ!です。たまに、気むずかしいおじいさんおばあさんいらっしゃったとしても、その方(たち)の「越し方」+苦労かもしれませんけど。
二年間は私たちには長い時間ですけど知樹先生にはアッという間かも。
では又、お身体を大切にしてネ。
(絵葉書をありがとうございまいした。トテモ、トテモ、ウレシイです。おじいちゃんにもよんであげました。) 
05.5.5 夜
 
 おばあちゃん

 孫を心配する手紙なんて世界中どこにもあるとおもうけど、「越し方」+苦労だなんて言い得たものだ。自分のことも考えていたのかもしれない。そう言われれば、人間何才であっても「越し方」と苦労があるなと、この手紙を読むとなんだか納得してしまう。なおこの手紙はつい最近に、祖母が他界して3年たってから発見された。私が返信先を書かなかったせいもあり祖母はこれを送ることができなかったのだ。

 しかし、この手紙がこのタイミングで届いたことにも意味があるんじゃないか。病棟で患者さんとご家族に病状説明しながらそれぞれの「越し方」+苦労を振り返って、そう思った。



10/05/2016

OUR BLOG

 去年京都でひらかれた学会に行って、ループス腎炎に抗GBM抗体陽性が併存することがある、とかいろいろ勉強になった。でも一番の経験は、あるお寺で掃除をされていた禅師に偶然お会いしお近づきになったこと。後日この禅師にいただいた「これを放てば手に満ちたり」という言葉が、いま身に沁みる。

 お察しの方もいるだろうが、SZDというのはSeize the Day(その日にできるベストを尽くそう)という言葉の略である。日々学んださまざまな知識や経験を、何か役に立てばと思って書いてきた。読者の方々を意識して利他的にかいた積りだけど、やっぱりマイブログはマイブログで、分野も横断的で投稿の目的もさまざまになる。

 それで、わたしよりも腎臓内科に情熱あるライターにコ・エディタ、コ・オーナーになってもらい、あたらしいブログをつくった(もし以前の腎臓関係の投稿をご参照くださっていた方がいたら、すべて移してある)。

http://bokutachinokiseki.blogspot.jp/

 あたらしい情熱は、あたらしい受け皿にいれよう。

 今までみてくれた皆様、ありがとうございます。

 これからも引き続き、よろしくお願いします。



10/01/2016

Dispenser

 「ヘパリン1000単位/mlを3mlで3000単位、確認お願いします」といわれて振り向くと、ヘパリンのバイアルと3mlの液体が入ったシリンジが並べてある。ここで「OKです」と言えるには、信頼が必要だ。なぜならばバイアルのなかのヘパリンと、シリンジの中の液体が同じだという証拠がないからだ。そうやって正論を指摘し、「たしかにそうですね、すみません(空気読め)」と目の前でバイアルから引き直してもらうことで世界が少し平和になったと思う一方、そんなことをいちいち疑いだしたら世の中はまわらないよな、と複雑な気持ちだ。信頼というのは、治安とおなじくらい、空気のようにあって当たり前だけどないと困る。

 「医療物品(医薬品とか消毒液とか)」の物流を取り扱うのはSPDというところだ。SPDが何の略か医者を10年以上やっていて知らなかったが、サプライ・プロセシング・ディストリビューションのことを指す。ただの用度課と違うのは、外注委託の業者さんが仕入先から病棟まで一元的に管理してくれることだ。そのおかげで看護部の物品管理の手間が省かれ、医事の負担が軽減し、在庫のムダが少なくなる。もとはメディケア導入などにより経営危機に陥った(以前にここここで習った)病院を救うため、コスト削減の手法としてうまれたらしい(日本医療福祉設備協会会誌「病院設備」第50巻6号)。病院が集まって交渉し、物品の価格をさげているところもある。

 さて、読者のみなさまはどうして私がこんなことを書いているのかもうおわかりかと思う。それは、SPDのIoTによって病棟の安全を確保するために、ディスペンサーを置いてはどうかという提案をするためだ。ディスペンサーというのはIDとパスワードを入れて必要な分しかだせないミニ倉庫で、これを導入すればいつ誰がなにをどれだけ引き出したかわかる(より正確には静脈認証がいい)し、今流行りのIoTでどこにどれだけ物品を補充すればいいかリアルタイムでわかる。電気代がかかるが物品・在庫によるコストの削減で回収できるはずだ。災害時に物品がロックされて使えないのが問題だがG電源をとればいいし、情報漏えいはプロに任せれば安心なはずだ。

 起こることが予見できるのに「それは仕方がない(起きて謝罪すればいい)」と諦めるよりも、起こらない方法を考えて試してみたほうが前向きで、よい副産物が得られるかもしれない。なお、ディスペンサーの成功例は術衣の管理だ。術衣はとても着心地がいいせいか、忙しい業務の中でけっこうなくなってしまい、そのコストが馬鹿にならない(これを英語でスクラブ・ロス・イシューズというそうだ)。そこでディスペンサーをつかうと「あなたはすでに1着引き出しているのに洗濯に回っていないんですけど」とかちゃんと管理してくれるし、棚に野ざらしで置いてあるよりも衛生的だ。日本で導入しているところもきっとあるに違いない。



 [2018年7月追記]この投稿のきっかけになった事件は、容疑者の逮捕をむかえた。名前を変えた病院は、薬剤管理を徹底するとしている。ディスペンサーにまでしたかどうかは、わからないが。