12/13/2018

忘れられない一言 51

 内科レジデントだった2009年頃、ICUローテーションの初日のことだ。担当患者を回診して全システム(循環、呼吸、神経・・)について情報を得て、息つく暇もなく突入した指導医回診で、まず指導医は私達にこう言った。


「私が求めるのはただひとつ、良心に背かないことだ」


 そして、良心に背く例として挙げられたのが「ICU前の家族待合室を避けて、裏の通路から出入りすること」だった。

 どうしてこの例をあげたのだろう?と当時は不思議に思った。しかし、今思えば「カルテを改ざんしない」というレベルのことを期待しているのではない(そんなのは常識であり当然)ということだったのだろう。

 その言葉をもらってから、今でも待合室やラウンジ、売店前など家族がいそうなところをちょっと覗く癖がついている。しかし先日、ほんとうに忙しい時に目が合って(もちろん目をそらしたりはしないが)、説明を求められて少しどぎまぎしてしまった。

 こういうときは「自分はできるだけ相手の気持ちを理解しニーズに応えようとしている」という姿勢を示すことが大切だ。たとえば、敢えて椅子に腰を下ろす。大事なこと・相手が聞きたいことを最初に話し、詳細は後日にする(できれば具体的にいつ、と伝える)。

 さらに(耳が痛いが)、本当に家族と話す時間がないほど忙しいかと言えば、そうでもない。患者が急変しているのなら別だが、その数分を割いたら世界が終る、なんて状況はまずない。工夫すればいいことだ。

 わかってはいるが、とっさの対応は完璧にはいかない。良心に背かないためには、気持ちだけでなく経験も必要ということか。