5年間の米国生活、救急外来で診療する機会は数え切れないほどあったが、患者ないし患者家族として受診する機会はなかった。しかしもし患者として受診していたら、この一言にびっくりしていたかもしれない。
「
遺書はありますか?」
「遺書」といわれるとビックリするが、これはadvanced directiveのことだ。
日本語通訳の方がこういったようで患者さんもびっくりしていたが、たしかに「事前指示」という訳語もあまり一般的ではなく、そもそも急変時や自分で意思決定ができなくなったときにどうするか(コード・ステータス)をあらかじめ決めている人はそう多くない。
そんなわけだから、時間のない救急外来でコード・ステータスを確認しようとしてもけっこう困るのではないか。筆者はこういう問題を深くかんがえるタイプだからいろいろ苦労したが、最近は現実的にやれるようになって、わりと助かっている。
その要点をいくつか書いてみると、コード・ステータスは
1)何かがなければならないが、
2)こうでなければならないというものはなく、
3)いつでも変えられる
と言うことだ。
まず1)については、「決められないならフルコード」になる。そういっておくと、とりあえずの結論がでる。
2)についていえば、「DNARを取るべきだ」と医療者が考える場合はその理由を十分に説明するべきだが、「DNARでなければならない」ということはない。Agree to disagree、意見の相違があることを認めて、フルコードでどうなるかを知ってもらえば、それでよい。
この時、AND(allow natural death)という言葉を使ってもいいかもしれない(
こちらも参照)。
そして3)についてだが、最初は1)の意味でのフルコード(あらかじめ「心肺蘇生しないでほしい」という明確な意思がなく、救命目的で救急外来にやって入院診療する以上は「がんばりたい」というような)で、その後DNARにかわってもよい。
病勢が悪化する、急変がより差し迫る、心肺蘇生の意味が医学的になくなってくる・・・など入院してから状況は変わるし、ご本人とご家族がいろいろ考えたり話し合ったりして方針が変わることもある。