診察室の閉じた扉をノックして「どうぞ」と言われて中に入るのは、あたかも学校の先生に呼び出されたみたいに感じて思わず「失礼します」と言いたくなる。で、入ると医師が革張りで背もたれとアームレストのついた椅子に座って身体を電子カルテに向けているのである。それに対して患者の椅子は簡易なもの。やれ接遇だおもてなしだと言いながら、こういう根本的なところはなかなか変わらない。ただこればっかりは仕方ない、外来の構造が日本と米国で違うからだ。
米国は診察室に患者が通されそこに医師がノックして入り、診察台に座った患者のほうが医師より視線がたかくなり、医師はそこで自己紹介して患者と握手する。しかしそれはできないので、私は呼び出しボタンをクリックしたら診察室のドアを開けて患者さんを迎えにいくことにしてみた。こないだあった接遇研修(こういうのはどこも全職員必修なのだ、うちの病院はやってますよといえることが大事だから)があったが、「挨拶」と言う漢字は「挨」が心を開くこと、「拶」が相手に向かっていくことだと習った。
正直はその場で相手を直ちに治してあげられないことに申しわけなさを感じてしまうこともあり、心を開けているかはわからないが、態度から変えていけば心持ちも変わって行くかもしれないと、半分は自分のためにやっている。もう半分は、診察室まで歩いてくる(または車椅子を押されてくる)様子を一目見ただけでも診療に重要な情報がたくさん得られるからだ。歩き方と速度、表情、服装、同伴者などを数秒スキャンするだけで病歴がだいぶん取りやすくなる。「わざわざ出迎えてくれてありがとうございます」と言われることもあるが、それに満足したくてやってるわけではない。