5/09/2015

ロールキャベツ男子

 日本に帰ってきた医師が慣れないことのひとつが医局というスペースだと思う。プライバシーがなく、落ち着かない。常に見張られている気がする。机の前で、休んで良いのか良くないのかわからず困惑してしまうのだ。向こうで研修医をしていた頃は、机はない代わりに働く時は病棟のworkroom(ナースステーションのような、医師の詰所部屋)にいるし、休む時はresidents' lounge(卓球台があったのが懐かしい)や図書館に居られた。スタッフになれば、机だけでなくoffice(部屋)が与えられ、その壁に大学の卒業証書や専門医資格証を額に入れて掛ける(そして机には家族の写真または子供が書いたパパあるいはママの絵が飾られる)。私がmentorたちと話をする時なども、先生方のofficeに行ったものだった。
 もっとも、だいたいどの医局にもテレビとソファーを置いた「憩いの部分」はあって(そしてそこにあるテーブルにはどういうわけか菓子が切れることがない)、そこで歓談や休憩をできるようになっている。しかし、大量の机とコンピューターの前にいる先生方をバックにしてプライバシーも何もないから、ここで憩い歓談しろといわれてもMURIと思ってしまう。まだ来たばかりで声も掛けにくいし、年配の先生が新聞を読んでいるのを邪魔するわけにもいかないし…。でも、私がこう書いたら今の職場にworkroomやloungeやofficeが出来るわけじゃないから、医局での過ごし方に自分から慣れていかなければならない。
 というわけで、一番身近な先生が「憩いの部分」に居るとき、話に入り込めそうだったのでそろりと近づいてみた。最初は仕事の話をしていたが、じきにくだけた身内なムードとなり、その先生が研修医の先生に「先生は将来、肉食家庭医になってね」と声を掛けた。私も肉食系・草食系くらいは知っている。それで興じてその先生に、別の研修医の先生は何系ですかと聞いてみた。すると、「彼はロールキャベツです」という答え。ほう(は?どういうこと?!)と生返事をしたら、「外側は野菜だけど中は肉ってことです」と説明してくれた。そして周りで話を聞いていた(そう、話はすべて筒抜けなのだ…慣れろ…)ひと全員がこの言葉の意味を理解していた…。少しずつ馴染んでいこう。きっとできる。