それでも、予想外のことは起こる。
外来診療も同様で、「どうしましたか?」「そうですか」「検査はこうでした」「治療はこうしましょう」「では次お会いするまでお元気で」と、とんとん拍子に行けばよいが、そうも行かない。
予想外の結果にも対応しなければならないし、予約外の患者さんがやってくることもある。
・・・当たり前のことだと思うだろう。
しかしそんな時(とくに、疲れていたり空腹だったりすると)、「秩序が乱れた」という怒りを感じることもあるから、注意しなければならない。
エーリッヒ・フロムは『人生と愛(紀伊国屋書店刊、1986年)』のなかで「制服を着たサディスト」の特徴として、「人間を物と見なす」ことと、「度を過ぎた秩序愛」を挙げ、以下のように述べている(太字は筆者)。
秩序は唯一の確かなものであり、人間が支配できる唯一のものである。度を過ぎた秩序意識を持っている人間は、通常生命におそれを抱いている。生命は秩序をもたないからである。生命は自発的であり、驚きをもたらすからである。
映画化もされたスタンフォード監獄実験の責任者、フィリップ・ジンバルドーなら、「制服を着るからサディストになる」というだろう。エーリッヒ・フロムは、サディスティックかそうでないかは性格の違いだという。現在の脳科学者なら、扁桃体の発達程度で説明するかもしれない。
いずれにせよ、大事なのは余裕と、(余裕がないと秩序が乱れたと感じてしまう、という)自覚である。
いつだったか、鉄道関係に長く勤めたある人は、筆者にこう言った。
医療はね、常に事故対応なんですよ。
この言葉を、忘れないようにしようと改めて思った。