2/27/2020

再び、サイエンスでアートに触れる喜び

 三平方の定理(Pythagorean theorem)を一般化した、余弦定理(laws of cosines)。




 これを見ているうち、試しに角Aを45度、辺bの長さを1にしてみたくなった。例によって、薬屋さんの説明を聞いているときだ(こちらも参照)。これにより余弦定理はすっきりして、aは以下のように表せる。




 これは、下図のように辺cを伸ばしていったときに、辺aの長さがどのように変化するかを表した式だ。自明ながら、図の黄色線のところでaは最短となる(1/√2)。またcがゼロに近づけばaは1に近づき、cが大きくなるほどaはcとほぼ等しくなることが、図からも確かめられよう。




 逆に言えば、aはゼロにはならない。それは、上記の二次方程式が虚数解を持つからだ。




 でも、逆に言えば、cが虚数解のときには、aはゼロになる。これを可視化できないかと思ったら、検索でわりと簡単に方法がみつかった。ふたつの複素数平面でつくられる空間で、表現すればよいそうだ。

 まず、上記の二次関数は、以下のようなグラフになる。


Googleで作成

 
 そこに、新しく虚数軸を導入する。




 青線グラフの真下には、実数平面と直交し虚数軸に平行な別の平面上に、幻のような赤線のグラフが浮かび上がる。そして赤線グラフ上にあるどの点も、青線グラフとおなじく二次関数を満たす。




 そして、赤のグラフがy=0の複素平面と交わる二点こそが、上記二次方程式の虚数解となる(緑矢印で図示)。


 


 ここまでたどり着いた時、筆者は1年ぶりに「ああ、生きててよかったなあ」と思った(前回はこちら)。世界は、広い。余談だが、1年前知ったヴィエトの公式で知られるヴィエトは、なんと16世紀に余弦定理を独自に発見したらしい。




2/20/2020

Found It

 いまでも心音は作法に従ってA(大動脈弁)→P(肺動脈弁)→T(三尖弁)→M(僧帽弁)の4箇所聴くことにしているが、診察していて心雑音が聞こえたとき、思い出す漫画がある。

 2013年、米国内科学会雑誌にWEB限定で発表された、"Missed It"だ(無料で閲覧できる)。



 
 診察で聴こえた心雑音を無視したために、手術すれば救命できたであろう重度大動脈弁狭窄症の患者を死なせてしまったという、研修医で当直していたころを回想する医師の話だ。
 
 それ以来、聴診で「あれ?」と思ったときには、「聴こえないふり」をしそうになるのを抑えて、もう一度同じ場所に聴診器をあてて、聴きなおす。そして「やっぱりおかしい」と思ったら、心エコーもオーダする。

 すると、時には上行大動脈瘤に伴う大動脈弁閉鎖不全など、命に関わるものが見つかることもある。

 米国医学部で「ヒポクラテスの祈り」と並んで唱えられる「マイモニデスの祈り」には、「見えるものを見えないと思い込んだり、見えないものを見えると思い込んだりすることのないようにしてください」という句がある(全文訳は、筆者訳『医のアート ヒーラーへのアドバイス』も参照)。

 要はそういうことだが、祈りを唱えるより漫画を読むほうが効果が高いかもしれない。聴診しながら「フッ」と画がよぎるし、そこに込められた作者の悔恨(下図)が感情面に訴えかけてくるからだろう。作者に感謝したい。




2/07/2020

仕事終わりの空に

 仕事を終えて病院から出ると、外は何も変わらず、「ああ、院内でいろいろあったけど、一歩出ると平和だなあ」と不思議な気持ちになる。

 さらにこないだは、西の空に金星と三日月がセットで見えた。翌日も見えたが、月はより高い位置にいた。その翌日は、もっと高い位置に。金星と月は、どんどん離れていった。




 そして、その後も夕方の空を見ていると、じつは金星も少しずつ昇っていた!

 金星と地球は、2019年8月14日に外合(太陽を挟んで地球と向かい合う、superior conjunction)し、2020年3月25日に東方最大離角(太陽から最も離れて見える、greatest eastern elongation)となり、6月4日に内合(太陽と地球の間にくる、inferior conjunction)する。



 
 外合から内合までの期間、金星は夕方に見える。地球は365.25日、火星は224.7日でそれぞれ太陽のまわりを公転しており、会合周期は583.9日だ。

 また、お互いインコースとアウトコースを違う速さで運行するため、お互いに追い越したり追い越されたりする。その際、地球から見ると、運行が順行(prograde)→逆行(retrograde)→順行となる。今年の逆行は5月13日から6月25日までで、切り替わる時に運行が止まって見えることを、留(stationary)という。
 
 こういった話を、新聞やテレビでやらないのは、不思議だ。地球に住んでいるという自覚が生まれる(金星が炭酸ガスによる暴走温室効果で過熱していることも、思い出すだろう)し、自分が抱えている問題が小さなことに思える効果もある。

 もっと「太陽系ニュース」みたいなのが身近になればいいのにと思った。

 ともかく、これから数ヶ月、金星の待つ夜空を楽しみに仕事ができそうだ。