2/27/2011

Yoruba

 Adekemi、Olufemiといった名前はナイジェリアではとても多いらしい。それぞれ"The crown(or king) cares me"、"The god loves me"という意味だ。ナイジェリア、ベニン(ナイジェリアの西、ナイジェリアが英国領だったのに対しベニンはフランス領だったので別の国になった)を中心に話されているYoruba語の言葉という。日本語とは違うが母音が多いので親近感がある。

Shatranj Ke Khilari

 チェスを習ってしばらく、その話を色んな同僚にしてみると「えー知らなかったの?」と驚かれる。というのも、同僚の多くを占めるインド人達の故郷ではイギリス文化が浸透しているからだ。そんな彼らに私は将棋のことをChinese Chessと説明する。インドではチェスは貴族王侯の遊びの象徴という。そんなバカ殿たちを描いた"Shatranj Ke Khilari(The Chess Players)"という1977年制作の映画があるらしく、劇中にチェスに興じる王たちが、内乱や外憂もそっちのけでチェスにのめり込むという筋書きという。ともかく共通の話題があるのはよい。親切な後輩の一人が、家に使わないチェス盤と駒があるのでくれることになった。

Chess

 先日、午後の休憩時間に後輩の先生たちと話していたらチェスの話になった。私はチェスのルールはいままで習う機会がなかったので、親切な彼らが駒の動き方と基本的なルールを教えてくれた。駒にはKing、Queen、Rook(塔)x2、Knight(馬)x2、Bishop(帽子)x2、Pawn(歩)x8がある。8x8のチェッカーボードにPawnが前列(2nd Rank)、それ以外は後列(1st Rank)に並ぶ。両端からRook、Knight、Bishopの順(将棋で言う香車、桂馬、銀)で、最内側のふたつのうちQueenは駒と同じ(白なら白い所)、Kingはその隣に置く。
 動きは、将棋と同じものと違うものがある。Kingは王将、Queenは飛車と角を合わせた動き、Rookは飛車、Bishopは角。Knightは桂馬に似ているが、前だけでなく八方すべてにL字で移動できるので将棋の積りでいると痛い目に遭う。またPawnは歩に似ているが、最初の動きは二個進むことができたり、正面の駒は取れず左右前の駒しか取れないなど違いがある。Pawnが8th rank(ボードの最奥)まで攻め込むと、promotionといって「と金」のように他の駒に昇格できる(たいていは最も動けるQueenに昇格させる)。
 他にもCastlingやEn passantなどユニークな動きがある。Castlingは特に防衛上重要だ。KingとRookの間にあるBishopとKnightが出て行った場合に、KingがRookに隠れるように移動することができる。ただしKingとRookの間のスペースが敵駒の攻撃範囲に入っている場合はCastlingは出来ない。ゲームは白が先手で、王手はcheck、詰みはcheck mate。他にstalemateというのがあって、これは詰んではいないのでこの状態でいる限りKingにcheckは掛っておらず負けてはないが、さりとて他に動かす手が一切ないという状況を言う。どんなに優勢でも劣勢でも、これは引き分けだ。
 ルールを習った後で、後輩の一人が紙で小さな駒を作ってくれ、初めてゲームをしてみた。Knightの動きとPawnの動きが新しかった。また、QueenはKingのすぐ横にいることから将棋の金のように守備に扱ってしまったが、チェスではQueenが攻撃の柱になる。Bishopは角と思っていると、チェスではPawnの次に位の低い駒なので、たとえばKnightやRookと引き換えに相手のBishopを倒すのは良い手とは言えない。また白の所にいるBishopは、チェッカーボードの白い所にしか行けない(黒い所にはどうやっても行けない)。逆もしかり。これは詰みを考えるとき重要になる。
 一度倒された駒が失われたきり使えないというのも大きな違いだが、これは駒の色が違うので実際やってみると納得だ。将棋を知らない後輩にこの話をすると「倒した敵の駒を味方にして使えるなんてslaveだ」と言っていた。Rookが序盤・中盤で余り出番がなく最終局面で活躍するのも面白く、英語のRookie(新人)はここから由来するというのもうなずける。Late bloomer(遅咲きの人)というわけ。初めてのゲームは後輩の先生が色々解説してくれたので教育的で、もちろん負けたけど非常に為になった。のめり込ませる魅力があって、暇な時間や屋内に閉じ込められた冬などに人生を豊かにしてくれること請け合いだ。

2/10/2011

MFZ

 職場で、仕事にばかり忙殺されずにMFZ(medical free zone)を持とうという試みを密かに企ていていたのだが、今日午後そのチャンスが巡って来た。病棟は落ち着いているし、新患も一人来てからは来る気配がない。それで、医学生一人、一年目のレジデント二人、それに私でLipton Tea片手にカフェテリアで医学以外の話をした。
 私が"We are not machine"という好きな言葉を軽く宣言してから、各々が思いもよらなかった話をはじめてどれも興味深かった。一人はNew Hampshire州のMt. Washingtonがいかに美しいエリアかを話した。来年そこで結婚式を挙げるらしい。一人は今の病院で働くインド人医師が、以前ベンガル州でcounter purcher(密猟者狩り)の仕事をしていたという話をした。ライフルを持って国立公園を駆け回っていたという。
 他にもNeuschwanstein城(ドイツ)、ゾウの生態、薩長同盟と王政復古、写真の話などで盛り上がった。同僚という以前に、お互いに人間じゃないかという気持ちになった。またMFZ以外ではかなりintensiveに医学の話をするので、メリハリができてよかった。私も、読み始めたEconomist誌の記事から得たチュニジアやエジプトの騒動の真相について、自分の言葉で説明することができた。

2/02/2011

PLGE

 SLEの患者さんで、数ヶ月前から徐々にprednisone、MMF、hydrochroloquineをやめていった人が一カ月続く嘔吐と下痢で再来院した。再来院というのは、数日前に一度入院したが、そのときには補液で気分がよくなったので勝手に帰ってしまったのだ。当時の便検査では感染を示唆する所見はなく、自己抗体でもCeliacやIBDを示唆するものはなかった。
 一か月続くという時点でおかしい。SLEの胃腸症状で文献にあたると、mesenteric vasculitisについで多いとされるprotein-losing gastroenteropathy(PLGE)が最も当てはまる。アルブミン値も低く、重度の脱水にもかかわらず下肢浮腫がみられ、CT所見もnonspecific colonic wall thickeningでぴったりだ。診断はTc-99m albumin scintigraphyで、うちの病院で出来るか核医学の先生に聞いてみようと思う。
 IBD(炎症性腸疾患)も考えたが、そもそもSLEとの合併は稀とのことで、CT所見・症状もあまりしっくりこない。おそらくコンサルトした消化器内科医が内視鏡したがるだろうが、low yieldだろう。シンチグラフィで確定診断がつけば良い。PLGEはステロイドが著効するらしいので、そうであってくれればよいと思う。