80歳になる女性の患者さんと話をした。彼女は夫と結婚して56年になるという。結婚して時間が経つと"you become one person"、二人は一人になると言っていた。しかし、"The first 7 years are the worst"という。これには驚いた。新婚という言葉もあるが…。彼女が言うには、最初のうちはお互いの考えや行動、感情などが読めずに苦労するという。しかし徐々にお互いが分かってきて、"you will live with yourself"、自分自身と一緒に生活しているように感じられるという。"That's what marriage is all about"とも言っていた。
この話が面白いのは、単に結婚話を聞いたというだけでなく、この患者さんが私の同僚皆から"She's not nice"と嫌われていたということにある。確かに部屋に入ると「あんた誰」、「ここの医者はどいつもこいつも何にも知らない人ばっかりだ」とか毒づいていた。しかし今の私はそれ位で動じることはない。薄く笑ってから会話を続けるうち、彼女が家に残してきた夫を心配していること、それで一刻も早く退院したいこと、内科・循環器科・呼吸器科、さらにジュニアレジデント・シニアレジデント・指導医など多くの医師が入れ替わり立ち替わりやってきては違うことを言うのに辟易していたことが分かった。
人間、分からないことや不快なことにはいとも簡単にラベルを付けようとする。自分可愛さに防衛機制を発揮するのも良いが、患者さんは病人なのだし人間なのだから、怒っているときには何か原因があるはずと関心を持って辛抱強く話をすることが大事かなと思う。そうすれば結婚講座が聞けたり、その人のことがより一層分かって好きになるかもしれない。こういうことに関心を持つ私は実はプライマリケア医に向いているのかもしれないなと思う。でもこういった人間関係のことは何科でも(あるいは何の職業でも)きっと役立つだろう。