どうも呼吸器内科はOndine's curseとかPickwickian syndromeとか文学の香りがする病名が多い。今日もLady Windermere syndromeというのを習ったが、これはOscar Wildeの戯曲"Lady Windermere's fan"(1892年)に由来する。Lady Windermere syndromeとは、咳をしないことにより本来なら除去されるべき気道分泌物がたまり右中肺あるいは左肺舌区が無気肺となり、それがMAC(非結核の抗酸菌)感染を引き起こしたものをいう。私たちのみた症例も謎の気管支拡張にともなう右中肺の無気肺があり、過去にMAC感染を起こしたこともあったのでその話になった。
ビクトリア朝時代、女性は公の場で咳をすることはマナー違反とみなされた。それで彼女たちは皆できるだけ咳をしないようにして、軽い咳をするにも扇でできるだけ隠すようにした。そもそもコルセットがきつくて深い咳などできなかった。このようなfastidious(細心に注意深い)な行動が原因と考えられたので、Lady Windermere症候群と呼ばれるようになった。もっとも劇中のLady Windermereは病人ではなかったので、このような呼び名はふさわしくないという人もあるが。Pickwick症候群のPickwickが実際肥満による低換気を起こしていたのと対照的だ。