10/21/2013

忘れられない一言 3

 医学生数人を連れて患者さんの病歴聴取の練習をしに病棟に行ったときのこと。ボランティアしてくれる患者さんのところへ学生さんを連れて行き、問診を始めてもらう。彼らの問診は素人らしくてフレッシュな面もあるが、ともすると機械的になってしまうので、病室に顔を出して口を挟むのが私の役目だった。臨床家として何にでも興味をもつことの重要性を伝えるこのような機会は私にとって有難かったし、いまでも問診はこだわりを持って教えている。

 私がこうして「なぜ?」「どうして?」と考えながら問診ができるようになった最初のきっかけは、初期研修医時代。米国から教えに来た先生に、症例プレゼンする人が「これは面白い症例ではありません」と日本的に謙遜したら、その先生が「面白くない症例なんてない」と言ってからある逸話を紹介した。それが、あのOn Being a Doctorの名投稿"Curiosity"(Ann Int Med 1999 130 70)だったと知ったのは何年もたってからのこと。

 さて、そんなことを考えながら学生さんと患者さんのところへ行く。するとちょうど学生さんが患者さんに喫煙歴を聞いているところで、患者さんが「タバコはX年前にやめた」と具体的な年数を口にした。こういうときには、やめることを決心させた出来事があったと考えられる。心筋梗塞を契機に禁煙した、という人が最も多い(喫煙が一次予防ではなく二次予防・三次予防になってしまうのが悲しくもあるが、それが現実だ)。

 いずれにせよ学生さんが「X年前ということはY pack-yearか」と計算できたことに満足して先に進もうとするので、私が「どうして禁煙されたのですか?病気をなさったのですか?」と聴いた。すると患者さんは「9/11のあとでやめました」と言った。自分にも何かできることはないかと考え、一種のpledge(誓願)として禁煙したそうだ。歴史上の出来事というのは、いろんな人々がいろんな受け止め方をするものと実感した。