10/12/2013

ある問い

 「あなたにとって最も印象深かった患者さんは誰ですか?」と聴かれたら何と答えるだろうか。すぐに心に浮かぶ人がいるだろうか(個人情報だから別に言わなくてもいいが)。教師に印象深い生徒がおり、結婚式を挙げる聖職者に印象深いカップルが(たぶん)いるように、医師に印象深い患者さんがいてもおかしくないだろう。

 この質問が聴いているのは「最も印象深かった患者さん」であり「最も印象深かった症例」ではない。医学的に「印象深い症例」は山のようにあり、学会でも雑誌でもたくさん紹介されている。そうではなくて、この質問はお互いに人として関わったような、何か影響を与え合ったような、そんな患者さんはいますか?と聴いているのだ。

 この問いは私には重いが、それに答える助けとして、今まで書きたいと思っていた臨床医としての思いを書き始めたい。β介在細胞と体液貯留に関する新たな展開(JCI doi:10.1172/JCI63492)や、L-WNK1と家族性高K性高血圧の関係(PNAS 2013 110 14366)についての話を待っている方もいるかもしれないが、そっちは少し待ってほしい。

 というのも、私はイオンチャネルにしか興味ない訳じゃないから。いままでも経験をあちらこちらに書いてきた。うまい文章かはさておき、書き続けることが上達への早道と信じて、私なりにやってみよう。「学問と芸術とは肺臓と心臓のように助け合う」というゲーテの言葉もある。