2/03/2016

Armchair Detective

 armchair detectiveというのは、『謎解きはディナーのあとで』(東川篤哉)の影山のように話を聞いて推理する探偵のことだ。まあそんなにかっこいいものじゃないけれど、世の中の臨床的な問題はガイドラインとUpToDateに書き尽くされているものではないので、それでもわからないことはこの世に知られているところまでは調べなければならない。「わからない」といってしまったら、それで終わりだから。ほかの誰かが調べてくれると思ったら大間違いだから。最悪剖検になっても、正直いって通り一遍のことしか調べてくれないから。そしてなにより、論文がオンラインで検索できるおかげでたとえばlate-onset primary hemophagocytic lymphohistiocytosisの遺伝子異常、PRF遺伝子のさまざまな変異による免疫病態のスペクトラムであるperforinopathyなど、専門外や稀な病気であってもかなりのところまで調べることができるから。

 私は機械みたいに来る日も来る日も同じような病気を同じように治療するということはできなくて、ぜったいこれはおかしいという外れているところを見つけなければと思って(まあそれでも見逃すことはあるから難しいんだけど二度同じ間違いはしないようにして)、その時々の状況でどうすればいいかをclinical judgementを働かせながら悩み、患者さんごとの生い立ちとか個性とか家族背景とかにフォーカスをあてて共感しながらゴールを考え、医療がいろんな職種のいろんなひとたちが人間ゆえの不器用さで協力しあい危うく(内部告発するわけじゃないけど、危ういんですよ本当に…自明です)成り立っているのを受け入れながら腐らず仕事をしているわけだが、本気で調べなければならないことがあったらarmchair detectiveになってパソコンの前でサイバー攻撃のように検索をかけるのも大事な役目だと思っている。

 この作業は正直あたまが熱くなって疲れるなと思うこともあるけど、なんでもかんでもガイドラインとUpToDateで診療すればいいんだったら、それこそほんとうに誰にでもできるし。