11/09/2016

A Healthcare Provider

 英語を勉強した甲斐があったと思うのは、Economist誌の記事を読むとき。Malcolm Gladwell氏の本も甲斐リストに入っていたが、米国時代に空港で手に取ったOutlierは『天才!成功する人々の法則』として、そして最近読んだDavid and Goliathは『逆転!強敵や逆境に勝てる秘密』として、それぞれ訳されていた。

 ネイティブでなければ、訳書のほうがきっと読むのは速い。それでも原書をよむのは、値段が安いから。それから、読むのに時間がかかるほうが理解しやすいという逆説。David and Goliathにも、問題文を読みにくいフォントにしたほうが、読みやすいフォントよりも正答率が高いという話が出てきた。たしかに、日本語で斜め読みするより英語を読むほうが頭に残る気がする。

 そのDavid and Goliathに、急性リンパ白血病(ALL)の治療を大きく変えたEmil "Jay" Freireich先生のお話がでてくる。当時化学療法は、患者さんを苦しめるだけで根治もできないからやめよう、やっても1種類を1回、と考えられていた。しかしNIH Clinial Centerにいた彼とEmil "Tom" Frei、ふたりのエミル先生がそれを何種類も何度もやった。

 その前には、絨毛癌を何サイクルもmethotrexateを使って根治したM. C. Li先生がいた。しかし彼は異端視されNIHを追われた(のちに業績が認められた)。Freireich先生にも風当たりが強かったけれど、彼は他人がどう思うかを気にするタイプではなかった(そこがDavid and Goliathの主旨なのだが)し、Frei先生が調整や説得が上手でもあり、上司のGordon Zubrod先生も後押ししてくれた。

 ほうっておくと出血で助からない患者さんに血小板輸血するところから始まり、レジメンを重ねていき、ときには免疫がさがらないようにCML患者さんから余った白血球をもらってきて輸血したり、とにかく失うものがないので(何もしなければ死亡率100%だった)すべてを試して、ついにALLは治癒する病気になった。この話はSiddhartha Mukherjee先生のThe Emperor of All Maladies: A Biography of Cancerという本に詳しい(もちろんこれも訳されている)。

 現状の治療を提供する人をヘルスケア・プロバイダーという。でもそれだけじゃない。治療が広く行われるように活動する人がいる。現状を受け入れずに治療を変えていく人がいる。以前に書いた視力を回復する遺伝子治療もそうだし、視神経に信号を入力する人工網膜インプラント(写真)、網膜の再生医療もそう。でもこういうお話は日常臨床と直接関係せず、新聞や雑誌を読んでる人のほうがよほど詳しい。

 ヘルスケア・プロバイダーは現状のヘルスケアを提供するのが仕事で、それが期待されていて、それに対してお給料をもらう(極論すれば、ケアを提供することでお金を請求するのであって、ヘルスを提供することに対してではない)。そうなんだけれども、不安や絶望をもってやってくる患者さんに愛とか希望とかを提供できればなと思う。だから、夢や希望のある話はこれからも追いかけていたい。