3月にMGHで初の遺伝子加工されたブタ→ヒトの異種腎移植を受けたRick Slaymanさんが亡くなっていたことが、5月12日に報じられた。医師は腎グラフトが2年はもつつもりでいたし、入院時に拒絶反応がみられたものの回復し、退院後の腎生検でも問題はなかったという。まさにsaddenedであり、ご冥福をお祈り申し上げる。
病院は「世界中の数えきれない移植患者さん達にとって、Slaymanさんは永遠の希望の灯火(beacon of hope)であり続けるだろう」と述べた。また家族は、医師達の多大な努力と成果に感謝しつつ、移植の必要な何千の人達に希望を与えたいという「彼の希望と前向きさ(hope and optimism)は永遠に残るだろう」と述べた。
Slaymanさんは一度移植を受けたが腎グラフトが廃絶し、(同種)再移植のめどが立たないなか、異種移植を決断したという。もし最初の移植腎がもっと長持ちしていれば、そして(同種)再移植のめどが立っていれば、あるいは移植以外の腎代替療法がもっと彼にとって快適なものであれば、決断はしなかったかもしれない。
でも、そのどれでもなかった。そんな彼にとって異種移植は希望であったと思う。そして決断にあたっては、前向きさのほかに、勇気と(診療チームだけでなく、運命や神様も含めた)信頼も必要だったのではないか。
米国内でも限られた施設でしか行われていないので、「ついにこんな時代が!」と言いつつ現実味がないが、「自分や家族が患者だったら」「自分の患者さんだったら」と想像すると、よりよい治療を提供する・受けるという普遍的な話として実感される。自分の診療においても、希望・前向きさ・勇気・信頼を持ちたいと思った。
なお、4月にはLisa PisanoさんがLVADと共にブタ→ヒトの異種腎・胸腺移植を受けている。心肺停止の蘇生後であり、FDAが緊急認可して実現したため、Slaymanさんに移植された腎臓と同じeGenesis社製ではなく、United Therapeutics社製だったという。治験の始まるのは、時間の問題だろう。【7月9日追記:Pisanoさんに移植された腎臓は血流が少なく機能せず、5月29日に摘出された。Pisanoさんは7月7日に亡くなった。ご冥福をお祈り申し上げる。】