13年前、補体の動画を見たが、その後すっかり忘れていた。しかし、最近ふたたび動画(を含むレクチャー)を見る機会があった。忘れぬように内容を一部紹介する。
1989-1994年、George NuttallとHans Buchnerが、血液中に(熱されると力を失う)殺菌成分があることを示し、ギリシャ語でprotectを意味するalexoにちなみAlexinと名づけられた。Eculizumabの製薬会社Alexionも、これにちなんだ命名だろう。Alexanderはdefender of humanと言う意味。
その後、1890-1901年にJules Bordetが熱されても力を保つ成分と熱されて力を失う成分の2種類があると気づき、1899-1910年にPaul Ehrlichによって前者が抗体、後者が補体であることが示された。補体とは、「抗体の力を補う」という意味である。
その後30-40年の間に、抗体の力を補う=抗体によって活性化される=古典経路が見つかった。次に1954-1957年、Louis Pillemerが抗体なしで活性化される経路(Properdin経路)を提唱した。しかしRoebert Nelsonが激しく反対し、結果Pillemerは服薬自殺する。Pillemerの仕事はポスドクだったIrwin Lepowが地道に引き継いだ。
補体分子は50種類以上あり、これらはzymogenと呼ばれ、ふだんは活性がないのだが、プロテアーゼによって切断されると活性化する。分子量が小さい方をa、大きい方をbと呼ぶ。補体はドミノ効果で次々にカスケード反応を起こす。補体分子は発見順に命名されたので、カスケードの順番ではない(ゆえに混乱を招く)。
補体反応は①活性化、②増幅、③攻撃の3段階からなる。①は経路ごとに異なるが、古典経路(抗体)とレクチン経路(糖鎖)は結局代替経路に合流し、C3b分子が生まれる。②はC3bのことで、数秒のうちに何十億個に増幅する。③は3つ、細胞融解(MAC)、オプソニン化(C3b)、アナフィラトキシン(C3aとC5a)である。
古典経路は抗体から始まる。IgG1・IgG3・IgMのFcドメインに、花束のような形をしたC1qが結合する。抗体に結合したC1qは形態変化してC4をC4aとC4bに切断する。C4aはどうでもよく、C4bがC2bとともにC3 convertaseになる。→②、③へ。C4bは一瞬で消えてしまうが、その断片C4dは残るので、ABMRの診断に用いられる。
レクチン経路は、糖鎖(マンノース)から始まる。マンノースにMBL(mannose-binding lectin)が結合する。MBLはC1qに形も働きも似ている。マンノースに結合したMBLは形態変化してC4をC4aとC4bに切断する。C4aはどうでもよく、C4bがC2bとともにC3 convertaseになる。→②、③へ。
代替経路は、2002年に見つかった、最も強力で重要な経路である。活性化のトリガーを必要としない=常に活性化されている。C3は水分子と常に結合してC3aとC3bを作る。C3bがFactor Bと結合して、C3b-Bになる。C3b-Bは、Factor Dによって、(Baが切断されて)C3b-Bb=C3 convertaseとなる。
代替経路は制御されている(されていなければならない)。Fluid phase regulatorはFactor HとFactor Iが代表。Complement Factor H-related protein(CFHR)もある。5種類ある。Membrane-bound regulatorはDAF(CD54)、MCP(CD46)、CR1(CD35)など。
なお、前述のProperdinとは、C3 convertaseを安定化させFactor Hによる制御を防ぐ働きがある分子。
腎臓は血流が多いうえ、フィルターに免疫複合体が沈着しやすく、糸球体内皮細胞はCD55やCD59といったregulatorを表出しておらず(CD46くらいしか表出しておらず)、補体制御をfluid phase regulator(Factor Hなど)に依存している=Factor Hなどの異常があると補体関連疾患を起こしやすい。
さらに、腎臓はC3、Factor B、Factor Dをたくさん合成している。そのため、補体は稀な疾患だけでなく、CKDの腎障害の隠れた本態なのではないか!?と提唱する人もいる(J Clin Invest. 2025 May 1;135(9):e188353)。
もう少しあるが、またの機会に(おまけ:昨年、MACが作られる様子を撮影した研究がでた、Nat Commun. 2019 May 6;10(1):2066)。