1954年12月23日、世界初の成功した腎移植は二人の間で行われた。ふたりは双子で、Ronaldはドナー、Richardはレシピエントだった。Richardはrecovery nurseと結婚し、移植後8年生存した。Ronaldは移植についてあまり語らず、数学教師(と農業)生活ののち、2010年に79歳で死去した。心臓手術の合併症で、亡くなる前には透析を要したという。
人と外国語と音楽が好きで、世界に通用する実力と癒やしをもったお医者さんを目指しています。国内外いろんなところでいろんな経験をしてきて、逆境も多かったけど、そのぶん得られたしなやかな強さと優しさをもって、周りの世界を少しだけ幸せにできたらなと思っています。
5/31/2025
補体
13年前、補体の動画を見たが、その後すっかり忘れていた。しかし、最近ふたたび動画(を含むレクチャー)を見る機会があった。忘れぬように内容を一部紹介する。
1989-1994年、George NuttallとHans Buchnerが、血液中に(熱されると力を失う)殺菌成分があることを示し、ギリシャ語でprotectを意味するalexoにちなみAlexinと名づけられた。Eculizumabの製薬会社Alexionも、これにちなんだ命名だろう。Alexanderはdefender of humanと言う意味。
その後、1890-1901年にJules Bordetが熱されても力を保つ成分と熱されて力を失う成分の2種類があると気づき、1899-1910年にPaul Ehrlichによって前者が抗体、後者が補体であることが示された。補体とは、「抗体の力を補う」という意味である。
その後30-40年の間に、抗体の力を補う=抗体によって活性化される=古典経路が見つかった。次に1954-1957年、Louis Pillemerが抗体なしで活性化される経路(Properdin経路)を提唱した。しかしRoebert Nelsonが激しく反対し、結果Pillemerは服薬自殺する。Pillemerの仕事はポスドクだったIrwin Lepowが地道に引き継いだ。
補体分子は50種類以上あり、これらはzymogenと呼ばれ、ふだんは活性がないのだが、プロテアーゼによって切断されると活性化する。分子量が小さい方をa、大きい方をbと呼ぶ。補体はドミノ効果で次々にカスケード反応を起こす。補体分子は発見順に命名されたので、カスケードの順番ではない(ゆえに混乱を招く)。
補体反応は①活性化、②増幅、③攻撃の3段階からなる。①は経路ごとに異なるが、古典経路(抗体)とレクチン経路(糖鎖)は結局代替経路に合流し、C3b分子が生まれる。②はC3bのことで、数秒のうちに何十億個に増幅する。③は3つ、細胞融解(MAC)、オプソニン化(C3b)、アナフィラトキシン(C3aとC5a)である。
古典経路は抗体から始まる。IgG1・IgG3・IgMのFcドメインに、花束のような形をしたC1qが結合する。抗体に結合したC1qは形態変化してC4をC4aとC4bに切断する。C4aはどうでもよく、C4bがC2bとともにC3 convertaseになる。→②、③へ。C4bは一瞬で消えてしまうが、その断片C4dは残るので、ABMRの診断に用いられる。
レクチン経路は、糖鎖(マンノース)から始まる。マンノースにMBL(mannose-binding lectin)が結合する。MBLはC1qに形も働きも似ている。マンノースに結合したMBLは形態変化してC4をC4aとC4bに切断する。C4aはどうでもよく、C4bがC2bとともにC3 convertaseになる。→②、③へ。
代替経路は、2002年に見つかった、最も強力で重要な経路である。活性化のトリガーを必要としない=常に活性化されている。C3は水分子と常に結合してC3aとC3bを作る。C3bがFactor Bと結合して、C3b-Bになる。C3b-Bは、Factor Dによって、(Baが切断されて)C3b-Bb=C3 convertaseとなる。
代替経路は制御されている(されていなければならない)。Fluid phase regulatorはFactor HとFactor Iが代表。Complement Factor H-related protein(CFHR)もある。5種類ある。Membrane-bound regulatorはDAF(CD54)、MCP(CD46)、CR1(CD35)など。
なお、前述のProperdinとは、C3 convertaseを安定化させFactor Hによる制御を防ぐ働きがある分子。
腎臓は血流が多いうえ、フィルターに免疫複合体が沈着しやすく、糸球体内皮細胞はCD55やCD59といったregulatorを表出しておらず(CD46くらいしか表出しておらず)、補体制御をfluid phase regulator(Factor Hなど)に依存している=Factor Hなどの異常があると補体関連疾患を起こしやすい。
さらに、腎臓はC3、Factor B、Factor Dをたくさん合成している。そのため、補体は稀な疾患だけでなく、CKDの腎障害の隠れた本態なのではないか!?と提唱する人もいる(J Clin Invest. 2025 May 1;135(9):e188353)。
もう少しあるが、またの機会に(おまけ:昨年、MACが作られる様子を撮影した研究がでた、Nat Commun. 2019 May 6;10(1):2066)。
5/28/2025
形質細胞に対する治療
抗体を産生するのはCD20陽性細胞だけではない。だから、CD20をターゲットに治療しても、抗HLA抗体はなかなか減らない。そこで、形質細胞に対して治療してはどうか?というのが、臓器移植の動向である(AJT 2025 25 19-26)。
骨髄腫治療が進歩したおかげで、形質細胞に対する薬はたくさんある(もっとも、転用するには手続きが色々大変なようだが・・MGRSの存在がその助けになっているかもしれない)。
最も用いられるのは抗CD38で、ダラツムマブ・イサツキシマブ・フェルザルラマブなどが脱感作・抗体拒絶などに用いられ始めている。メザギタマブ、CID-103などもある。
他には、BCMA(B-cell maturation antigen)をターゲットにしたテクリスタマブ・エルラナタマブ・リンヴォセルタマブ、GPRC5D(G protein–coupled receptor class C group 5 member D)をターゲットにしたタルケタマブなど。
リツキシマブ・オビヌツズマブ・・といった抗CD20治療が頭打ちな感もある疾患・状況に、ゲームチェンジャーとしての期待がかかる。昨年イサツキシマブを脱感作に試みた研究(JASN 2024 35 347-360)を読んだが、話題にしても「?」という感じだったので、広く注目されるようになって何よりだ。
Bumetanide infusion syndrome
ループ利尿薬のなかでフロセミド、トルセミドに次いで用いられるブメタニド。開発された日本では「諸般の事情により」販売中止となっているようだが、こちらでは強力な利尿作用を期待して奥の手的に選ばれることが多い。
しかし、ブメタニドはループにあるNKCC2だけでなく、脳や神経にあるNKCC1・KCC2も阻害する。そのため、ブメタニドに固有の痛みが知られている(Int J Cardiol 2014 177 e61–e62)。とくに、持続静注で起こる(持続静注で起きた患者でも、ボーラスにすれば大丈夫なこともある)。
5/27/2025
母の日特集
先週はEurovision Song Contest(ESC)決勝がバーゼルで行われ、(プロパガンダとしてコンテストに力を入れる)イスラエルの代表Yuval Raphaelを抑えて(クラシックの歌手としても活躍する)オーストリア代表JJが優勝した。サウナのすばらしさを歌うスウェーデン代表KAJや、マキアートへの愛を歌うエストニア代表Tommy Cashも話題になった。また、英語で歌う国が多い中、フランス・スイス・ルクセンブルグはフランス語で歌った(オランダもフランス語と英語のミックスだった)。
母の日が近かったせいか、普遍的なテーマだからかは分からないが、母が関係する曲が多かった。フランスのLouaneは"Maman"、オランダのClaudeが歌う"C'est la vie"は「母さんが言っていた・・」で始まり、ノルウェイのKyle Alessandroは闘病する母からもらったメッセージを歌にした"Lighter(命を燃やせ、の意味)"、そしてギリシャのKlavdiaは祖国と難民・移民を母と娘に例えた"Asteromata"。
ヨーロッパと母と言えば、モーツァルトのピアノソナタ8番(K310)。彼の母がパリで突然病に倒れ急死したころに書かれた曲である。珍しく短調(A minor)で始まる第一楽章は、モーツァルトのピアノソナタのなかで最も素晴らしいという人も多いようだが、作曲の経緯を知ると、彼のものすごい動揺と苦しみが込められているようにも感じられる。
Commencement address
以前にこちらでも話題にしたAbraham Verghese先生が、いま渦中のハーバード大学で卒業式スピーチをすることになった。同大学の卒業行事は来週の火曜から木曜にかけて行われ、スピーチは木曜朝のようだ。医師だけでなく全大学を対象にしたお話に、注目したい。
5/10/2025
Cookie
5/08/2025
Permissive hypertension
移植直後は高血圧を許容する傾向にあり、降圧薬は中止し、術後(rATGなどで)血圧が低めな時には補液を積極的に行う。DGFの場合も、除水は極力少量で済ませる。ただし、生体腎移植でCITが短い(スワップでない)場合、ドナーの腎臓はドナーの環境(正常血圧)に慣れているので、レシピエントの環境(高血圧)に置かれるとびっくりしてしまうかもしれない。もちろん低血圧は避けるべきだが、レシピエントを高血圧にしておく理由は、あまりない。
5/04/2025
Follow-up of active list
患者が移植前評価を受けたうえで、リストに載っても、すぐに移植されるわけではない。何か問題があると(感染症、悪性腫瘍、心血管系疾患などによる入院など)、それが解決するまではinactiveとされ、移植はまわってこない。
献腎移植の待ち時間が年余にわたる以上、リストに載っている患者の管理はとても重要だ。待っている間にリストから外れる患者も多い(高齢、死亡など)。逆に、腎機能が安定ないし改善しているのにリストに載り続けてしまうと、不要な移植がまわってくる可能性もある(手術に呼ばれて、やっぱりキャンセルして・・と、非常にどたばたすることは想像に難くない)。
Pre-transplantのコーディネーターも、Post-transplantのコーディネーターに劣らず、大変だ。